第一章

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「そんなことで機嫌を損ねたりしない」  ロイドというのはもちろん僕のあだ名だ。一見かっこいい響きをするロイドは、音に反して、揶揄するような意味が込められている。僕は実感したことがないのだが、ほかの人からしてみると、僕は心が動かないというか、心がない人間に見えるらしい。  喜怒哀楽の起伏が少ないから、アンドロイドみたいだと誰かが言い出すと、それはたちまち広がりを見せ、今ではクラスの大半がそう呼ぶようになっていた。そして、いつしかアンドロイドは略されるようになり、今ではロイドという形で定着しつつある。 「もうこんな時代なんだし、アンドロイドが必ずしも悪い言葉だって限らないと思うんだけどな」  圭太は諭すような口調だった。  童顔で小柄な圭太がそういう風に言うと、小さな子に慰められているような気分になって、より僕の心をざわつかせる。 「こんな時代って、まさか、アンドロイドが人間みたいになっているなんて噂本当に信じているのかい。そんな馬鹿馬鹿しいことあるはずがない」  圭太は参ったなという表情を浮かべている。 「何も迷信ってことはないだろう。さっきだって人間型検知アンドロイドが教室に来ていたじゃないか。それに、役所や製造工場ではもうアンドロイド化が進んでいる。人間らしいアンドロイドがいたって何も不思議なことじゃない」  まるで見たことがあるような口ぶりだった。やたらとアンドロイドに詳しいのは、いつもアンドロイド関連の本を読んでいるからだろうか。  確かに圭太の言うことには一理ある。今の時代そういうアンドロイドがいてもおかしくはない。だからといって、今すぐにアンドロイドを受け入れろなんて無理な話だ。  アンドロイドという呪縛は中学生の頃から被ってきたもので、そんなすぐ解消できる代物ではない。 「僕は圭太も、アンドロイドも嫌いだよ」 「俺はいいけど、アンドロイドは許してやってくれ。彼らに罪はないんだ」  そう言って圭太は去っていった。  それと同時にチャイムが鳴り響いて、窓の外を見つめる。  そこから見える景色なんてもう見飽きているはずなのに、僕はどうしようもなく窓の向こう側へと行きたかった。  叶わぬ想いは日常を告げる。
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