こっちもあっちも

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こっちもあっちも

「はー、zoomか……」  ウイルス感染対策の為、『zoom』で仕事を行うって上司から宣言されたのはつい昨日のこと。  私はやってくる人にこの後の流れを説明する『案内』が仕事だったんだけど、いつも実際に会って説明してた。zoomなんて聞いたこともないし、っていうか全く慣れてない。 (あーもー、何これどうなってんの? 部下の苦労も知らずに使ったこともない機能取り入れやがって……)  目の前のパソコンをいじくりまわしながら、私は心の中でこっそり上司に悪態をつく。  あっといけない、つい口調が乱暴になってしまった。自重、自重。  ……まあ、感染対策するのも仕方ないことだけどね。最近、ここに来るのはほとんどが感染した人達だし……。    そんなことを思いながらキーをカチャカチャ叩き、マウスを動かしているうちに、なんとかzoomに参加することができた。  やった、出来た!  と喜んだのも束の間、既に画面には十九人の顔が映っているのを見て顔が引きつる。ここに私が入れば二十人、定員全員が集合していた。  ということは……どうも遅刻したらしい。  うん、仕方ないよ。切り替え切り替え。   「お待たせいたしました」  首に下がった『案内』の札を見えやすいように画面の前に持ち上げながら、私は言う。 「この度は皆様に、今後の案内をさせていただきたいと思います。時間が限られていますので簡潔に行いますから、不明の点があれば後ほどご確認ください」  配られた書類に書かれている文章をチラチラ見ながら音読。棒読みになっていないことを祈る。この仕事長いし、たぶんなってないと思うけど。 「また非常に重要な話ですので、お聞き逃しのないようにお願いいたします。さて、本当なら自己紹介をするところなのですが、時間短縮のため省略させていただいて、まず皆様の今の状況についてお話したいと思います」  この後の文章は書類に載っていなかったけど、問題ない。  何万回、何十万回と言い続けてきたセリフ。しっかり頭の中に入ってる。  それをどう簡略に説明するかも、同じように暗記した。  一日に数えきれないくらいの人がやってくるのに、zoomだと二十人という上限があり、一度に十九人としか会話できないのは痛手だ。一回の対話時間を大幅短縮して、なんとか一日以内に全員分の説明を終わらせないといけない。  日本でこれだ、中国とかアメリカは今頃大変なんじゃないのかな……と思う。
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