その日暮らし

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その日暮らし

 いつだって目の前には道があった。  誰かが作った道があった。  道を走っていれば、どんな道かだいたい分かった。建物の外観や街に漂う匂い、雑然と鳴り響く音。鬱陶しいくらいに情報が溢れている街もあれば、退屈すぎる街もあった。暇さえあれば走ってたバイク野郎も、今じゃただの放浪者だ。  どこへ逃げようが太陽が笑ってやがる。バイクで走ってた方が涼しいくらいだ。  果てしなく広がる大地は、一面茶色のグラデーションしか映さねえ。全部枯れちまった。ここがどこだったか分からねえが、人が住んでた跡が窺えた。砂に埋まった建物や傾いた電波塔が通りすがりに見えることもある。(すた)れた街の残骸なんざあちこちに転がってる。  一人物思いに耽っていると、太ももを叩かれた。 「しょんべんか!?」  俺は風切り音に負けないように問いかけた。後ろから伸びた小さな手が俺の太ももを二回叩く。俺は注意深く辺りを見回し、安全な場所に目ぼしをつける。 「デカい街が見えるだろ! あそこまで我慢できるか!?」  また太ももが二回叩かれる。 「すぐ着くから待ってろ!」  俺は砂を被った街へバイクを走らせる。俺の腰に手を回しきれない子供は、シャツを掴んで背中にくっついている。振り落とされて死なれても寝覚めが悪い。必死に探して見つけたハーネスを、慣れないながらも着けることにした。
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