0人が本棚に入れています
本棚に追加
元の世界に戻りたい。一生思って生きていくだろう。きっとこの子も、逢いたい家族や友達がいたはずだ。
だがどんなに願っても、俺の前には砂まみれの世界しか見えない。何もかも砂に埋もれてしまう世界は、俺に絶望を見せているのかもしれない。
でも、ここに希望がある。俺以外に、この砂の世界に取り残された者がいるかもしれない。なぜこんな世界に俺がいるのか未だに分からないが、たとえ分からなかったとしても、俺が絶望に伏すことはなかっただろう。
『人生は楽しむもんだ。しっかり目を開いて、世界を見渡せ』
俺みたいなはぐれ者でも、じいさんはそう言って俺を可愛がってくれた。あのじいさんの言葉があったから、俺は今も生きていられる気がする。
俺は水を飲み、口を潤す。空いた缶詰に水を入れ、女の子に渡す。
「飲んどけ」
女の子は両手で受け取り、唇を切らないように慎重に飲む。
少し休憩を取った俺達は出発の準備を進める。リュックを背負い、女の子の前でしゃがむ。ポケットからクシャクシャのメモ用紙を取り出し、女の子に渡す。
「いいか。バイクのアルミニウム電池、保存食、水。この三つを一緒に探す。オッケー?」
女の子は首肯した。
「いい子だ」
俺は女の子の頭を撫で、店を出る。
外は依然陽射しが強い。ガラクタが転がる道の遠くでは陽炎が揺れている。砂を被る建物の間を通り、街の中を二人で進む。
世界がなぜこうなってしまったのか。
なぜ俺達だけがいるのか。分からないことだらけだ。それが分かったからといって、元の世界に戻れる保障もない。
ただ一つ、分かっていることがあるとすれば、人生はいつだって楽しみに溢れてるってことだ。それを見失わなければ、どんな世界だって生きられる。そう信じてる。
最初のコメントを投稿しよう!