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チャイムの音が鳴った後、直ぐさま廊下に鳴り響く生徒たちの足音と声。テスト週間だからだろうか、いつもエネルギーで満ち溢れている生徒たちの顔にも疲れが出ている。
「雄二せーんせ!国語のテスト、採点甘くしてねぇ」
「あ、ずるーい!先生、私もお願いねぇ」
猫なで声を出す女生徒の間をすり抜け、答案用紙を大切に抱えながら足早に職員室へ向かう。その途中、三階から二階へ降りる階段の踊り場で、ぼうっと窓の外を眺めている朱里がいた。
ふと制服のスカーフに目を向けると目が回りそうなほど捩れていたので、答案用紙を片腕で抱えて直してやった。
「お、ちょっ……先生、何するんですか」
「スカーフがとんでもない方を向いてるぞ。テストで頭を悩ませたことが、目に見えて分かるほどにな。放心するくらい出来なかったのか?」
「……テストはまぁまぁ出来たもん」
スカーフを直した私は朱里の言葉が耳に届いていなかったのか、テストで落ち込んでいる学生を励ますように背中をポンと叩いた。
「まぁ大丈夫さ。ほれ、スカーフも直ったぞ」
「……ん」
仏頂面のままちらっとこちらを見た朱里は、再び窓の外に目を向けた。
「どうした、ずっとぶすっとして。たまには、笑顔でありがとうくらい言ったらどうだ」
私のこの言葉を聞いた朱里は、驚くほどの鋭い眼光でこちらを見た。
「……ありがとう、くらい?そんなこと言うんだ」
か細い声で呟いた朱里は、こちらに向けられているとは思いたくないほどの冷たい視線で私の胸を抉り、喪失感や怒りを感じているような空気だけを残して足早に去っていった。
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