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その日はテスト期間中で良かった、と心から思う。もし普段通り授業があったとしたら、生徒たちに間違った事を教えてしまっていたかもしれないくらい、頭の中は朱里が私に対して冷たい態度を取った理由を探ることで一杯一杯だった。
まぁ大丈夫、なんて適当な事を言ったからだろうか。馴れ馴れしくスカーフを直したからだろうか。いくら考えても答えなんて見えてこないし、考えるだけ時間を無駄にしている気がしてくる。
――本人に聞いてみるしかない。
教室の隅に座っている雄二は問題用紙と向き合う疲れ顔の生徒たちにチラッと目を向けた後、胸ポケットに入れているボールペンとメモ帳を取り出した。
生徒たちに目を光らせつつ、膝の上にある国語の教科書を下敷きにしてスラスラと少し斜め気味な文字を書く。そして、書き終えると教科書の下に置いていた一冊の小説を手に取り、表紙とタイトルページの間にメモ帳から切り離した紙を挟んで閉じた。
――きっと朱里は面と向かって理由を聞くより、この方法で聞いた方が本音で語ってくれると思う。
チャイムが鳴ったと同時に、教室に鳴り渡る溜息混じりの声と紙が重なり合う音。集められた回答用紙を受け取り、号令が響き渡った後、雄二は廊下で屯ろする生徒たちの間をすり抜けながら階段を下った。
そして、職員室手前にある玄関へ足先を向け、朱里の名前が書いてあるシューズロッカーの前で足を止める。周囲に人がいない事を2度確認し、雄二は手紙を挟めた小説をそっと朱里の靴の上にのせた。
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