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返事を急かしている訳ではないし、そっとしておこうと思った。しかし、そう思った時既に私の左手は取っ手にあり、ゆっくりと扉を横にスライドさせていた。
扉が開く音で身体をビクッと震わせた朱里は、私の姿を見るや否や「なーんだ」とでも言ってるような表情をした。
「テスト明けで疲れてるだろ。随分遅くまで残ってるんだな」
コツコツと足音を立てながら窓際へ近付く雄二に、朱里は机の上に置いてある小説を手に持ってみせた。
「誰かさんがこれをロッカーに入れたからね。その……私も気分変えたかったし丁度良かったよ。もう少しで書き終わるから」
「そうか……その、さっきは癇に障るような事を言ってすまなかった」
「別にー。ちょっとあの時機嫌悪かっただけ」
少し微笑んで再び机に向かった朱里を見た後、雄二は窓の外に広がるグラウンドで駆け回るサッカー部員たちをなんとなく眺めながら考え事をしていた。
自分の気持ちを直接伝える事が苦手だという朱里は、自分の気持ちを文字にする事で気分転換できるらしい。日記を書くことでストレス解消になるということは科学的にも証明されているし、文章を書くことが朱里にとって精神を落ち着かせられる方法の一つなのだろう。
時折聞こえるシャープペンシルと紙が擦れ合う不規則な音で眠気に襲われてきた頃、朱里の「できた」という落ち着いた声が聞こえた。そして、机の上にある小説の表紙とタイトルページの間に紙を挟めた朱里は、背伸びをした雄二にそっと手渡した。
「はい、返事。本当は明日でも良いかな、って思ったんだけどね。テスト終わっても気分晴れなかったし、手紙に書いてあった『重いものは2人で持つと軽くなるぞ』って言葉が何となく嬉しかったからすぐ書いてみたの」
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