11人が本棚に入れています
本棚に追加
「そうか……そうだ、丁度リフレッシュルームへ行こうとしててな。ちょっと飲み物買いに行きがてら読んでもいいか?」
「別にいいよ」
少し恥ずかしそうな表情で俯いた朱里を背に歩きながら、小説に挟まっている手紙を取り出した。正直、エナジードリンクを買いに来ていたことなんてすっかり忘れていた。今更リフレッシュルームへ向かうのは、自分の思いが詰まっている手紙を目の前で読まれるのは恥ずかしいだろうと思った私なりの気遣いでもある。
教室の向かい側にあるリフレッシュルームのガラス扉を開けると同時に、二つ折りにされている手紙を開く。朱里の几帳面さが見てわかるような、規則的で丁寧な文字で埋め尽くされている。
手紙を読み進めるうちに、少しずつ胸が締め付けられる感覚に襲われた。なぜならば、今日友人との間でショックな出来事があった事、自己否定のスパイラルに陥ってしまった事、中々悩みを打ち明けられない事、たとえ悩みを打ち明けたとしても一生辛い気持ちが消えないかもしれない――という内容が書かれていたからだ。
朱里が抱えている問題は、私にとって非常に難しく悩ましい問題だった。なぜならば、病や障害の本当の辛さは患っている本人にしか分からないからだ。
――そう、朱里は吃音という発話障害がある。吃音は、言葉そのものを理解しているのに第一声が出てこなかったり、会話をスムーズに出来ないなどの症状がある。言いたい言葉が流暢に出てこないため、国語の朗読や友人たちとの会話、電話など、日常的に言葉を発する場面で私には知り得ない程のもどかしい気持ちを抱えながら朱里は生きているのだろう。
手紙には、里美というクラスの友人に「ありがとう」と言おうとした所うまく言葉が出ず口をあんぐりさせてしまい、「どうしたの?変なの」と言われて笑われて悔しかったと書かれていた。その場を笑って誤魔化し、涙目になっていたところを政樹と言う男子生徒に見られて恥ずかしくなり、いてもたってもいられず階段の踊り場まで走ったらしい。
『誰もが当たり前にしていることが、他の人にとっては当たり前じゃないことだってある。例えば挨拶だってみんな当たり前のようにしているけど、私にとっては決まりきった言葉を言う挨拶ができなくて辛い』という文章を見て改めて思う。
あの時「ありがとうくらい言ったらどうだ」と言った私の言葉は、朱里が怒りを示して当然の言葉だったのだ。
最初のコメントを投稿しよう!