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エナジードリンクと読み終えた手紙を持った雄二が再び向かい側の教室へ入ると、窓枠に座りながらグラウンドを見ている朱里の姿があった。
「手紙、読んだぞ。何ていうか、その……辛いよな」
「別に、昔から慣れてるからね。こういうの。小学生の頃なんて国語の授業の度にモノマネされたりね、はははっ」
窓の外を見ながら笑う朱里の目に、微かに涙が浮かんでいることを雄二は見逃さなかった。
「朱里。私は朱里の辛さを全て理解する事は出来ないけど、これだけは言わせてくれ。辛い事に慣れてはいけないよ」
眉に皺を寄せた朱里は、視線をグラウンドから雄二の方へ移動させた。
「辛い事は辛いと思わないと、いつか自分の感情が麻痺してしまう。手紙でも、未来の自分をすごく心配していただろう……面接や就職、社会人生活のことを考えると辛い事しか思い浮かばないって」
朱里が小さく頷くと、目に溜めていた大粒の涙が零れ落ちた。
「きっとこの先、辛い事もたくさん待ち受けていると思う。でも、それ以上に幸せな事も朱里を待っているんだよ。その幸せを感じるためにも、自分の気持ちには素直になって感情を麻痺させてしまってはいけないんだ」
「……私、どうすれば幸せになれるかな」
声を震わせながら呟いた朱里の頭を、雄二はポンポンと撫でた。
「きっと、幸せを見つけるという事が人生の主なテーマなのかもしれない。ほら……重い荷物は二人で持つ方が軽くなる、と言っただろう。人生を歩むと必ずと言っていいほど、大きな壁に出くわすものだ。そんな時は誰かに、辛い事を辛いと伝えてみてもいいんじゃないかな。皆んなに伝える必要なんかない。本当に大切な人に、自分のことを知ってもらうだけで見え方が変わってくるものだ」
「……本当に大切な人」
「今日笑ってきたといってた里美だって、朱里が吃音だって知らないから笑ったんだろう。今日みたいに辛い事があった時は、大切な友人に打ち明ける事で朱里の心の荷が少しでも軽くなると思うんだ。直接じゃなく、今日みたいに手紙で伝えたっていい。障害の事は伝えにくいと思うけど、恥ずかしいことではないし笑われるような事でもない。悩んでいる時こそ、信頼できる誰かに不安を打ち明ける勇気を持つことも大切なんだよ。少しの勇気で、変わる未来もあるんだから」
小さく頷きながら、肩を震わせて泣きじゃくる朱里。雄二は教室に差し込む夕陽のように温かく、優しく包み込むように朱里を抱きしめた。朱里をこれからも守り、朱里を支えていくという強い気持ちと共に――。
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