少しの勇気で変わる未来があるとしたら

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***  フラワーシャワー、指輪交換、ベールアップ。ファーストバイト、プロフィールムービー、キャンドルサービス――。  挙式と披露宴が予定通りに進み、私もようやく自然な笑顔を浮かべられるようになってきた。友人に囲まれて華やかな笑顔で写真を撮っている朱里を見た雄二は、あの日の事を思い出したのも、きっと朱里と共に幸せを感じられて心から嬉しかったからなのかもしれないと思っていた。 「――さて、新郎新婦のお二人からご両家の親御様へ、今日だからこそ伝えたい特別な想いをお伝え頂きましょう」  花嫁の手紙の時間となり、しっとりとしたBGMに切り替わった。朱里がゆっくりと立ち上がり、ピンク色のドレスを揺らしながらマイクスタンドの方へ向かっている。 「新婦朱里さんは今日のこの一日を迎えるにあたり、一通のお手紙をお書きになりました。ここで、新婦自らお読みいただきます」  司会者がアイコンタクトを送るとスポットライトが当たり、朱里は二つ折りの手紙を開いた。会場内にいる人々の注目を浴びながら肩を震わせている朱里は、ゆっくりと一度深呼吸をして言った。 「……まず、手紙を読む前に聞いて欲しい事があります。私は……吃音という、言葉がスラスラ言えない障害があります。そのため、人前で話すこともとても苦手で、本当はこの手紙も大勢の皆様の前で読まず、渡すだけにしようと思っていました。でも……勇気を出して、この気持ちを伝えようと思いますので、途中で止まったり、読み直したりするかもしれませんが、最後まで聞いてくれると嬉しいです」  顔を赤らめた朱里がまわりを見渡すと、応援するエールが飛び交い、会場は温かい拍手で包まれた。少しだけ緊張がほぐれたような笑顔を見せた朱里は、小さくお辞儀をして胸元に手を当てながら再び深呼吸をした。 「……あ、ありがとうございます。それでは、私に勇気を出すこと、気持ちを伝えることの大切さを教えてくれた……大好きな父に向けて手紙を読みたいと思います」
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