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ある老夫婦の別れ
ある一人の高齢の女性が、最後の時間を自宅の寝室で迎えようとしていた。
夫である勇人は目に沢山の涙を貯めながら笑顔で、妻である博子にこう話した。
『今まで、本当にお疲れ様でした。〝旅立つ〟時が来たんだね。』
博子は、最後の力を振り絞るように、顔を皺くちゃにさせて、ありったけの笑顔で応えてくれた。
『ええ、ひと足さきに〝向こう〟に行ってくる。』
もう、勇人は我慢出来なかった。目には大量の涙が溢れ出し声を震わせてながら
『俺も、いずれ〝そっち〟へ行ったら、君を探してもいいかな?』
博子の目も涙で光る。
『ええ、ひと足さきに行って、待ってるわ。そしたら、また一緒に温泉でも浸かりたいな。連れて行ってくれる?』
勇人は何度も頷きながら、博子の手を握りしめて
『ああ、勿論さ!』
そう言い放った時、博子は安心し切ったような様子で
『はやポン(勇人の呼び名)、今まで沢山色んな事があったね。苦しかった時期もあったけど、一度も、あなたから離れようとは思わなかったよ。何故だか分かる?幸せだったからよ。』
もはや、勇人は返事が出来ず。
何度もうんうんと頷くしかなかった。
何かを言いかけた瞬間。
博子は静かに目を閉じた…
妻は笑顔で旅立った…
君がいたから、ここまで来れた。
どんな困難な事も乗り越えられた。
後の事は大丈夫だから、もう休んでね。
ありがとう
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