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「最初からここまで歌ってみろ。」
倫也をピアノの椅子の右側に押しやって、俺はメロディーを鳴らす。
「Yes,man.」
緊張混じりの倫也の声がメロディーに乗って行く。
何だろうか…
懐かしい感じ…
俺は無意識に倫也の声にハモリを入れていた。
一瞬倫也はびっくりした様だったが、薄っすらハニカムと楽しそうに歌い続けた。
倫也は市の専門学校の留学生だった。
まだニューヨークに来て間もない倫也は、スターバックスでコーヒーを買うのも初々しく見ていてとてもくすぐったい気持ちになった。
「何ですか〜?俺の英語はまだまだですよ!」
注文を終えた倫也は恥ずかしそうに俺へ目を向けた。
「別に…」
「うぅ…響さんは流暢に喋ってますよね?どのくらいで喋れる様になったんですか?」
出来立てのコーヒーを啜りながら倫也が言う。
「は?」
「英語ですよ!」
「…俺はアメリカ生まれのアメリカ育ちだぞ?まぁ、個人情報は非公開にしてたから知らないだろうが…」
「ま、まじ⁈…はぁ…ずりぃ…」
「意味がわからん。」
「え、じゃあさ、イングリッシュネームってあったりするんですか?」
「ある。」
「知りたぁい‼︎」
「うるさい…そのうちに知るだろ。教えない。」
「ケチ……あのぉ…響さん。」
「何だ?」
「何で俺だったんですか?」
俺は手に持っていたホットティーをテーブルにそっと置く。
中々返事をしない俺を不安そうに倫也は見つめた。
「気に入ったからだ。それだけだ。」
「はぁ⁈それだけ⁈嘘でしょ⁈」
「理由なんて必要ない。俺はお前を選んだ。それが事実だ。戻るぞ…」
「え?もう?もう戻るの?休憩に来てまだ5分も経ってないけど?」
「…お前は、質問が多いな…良いから戻るぞ。」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
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