一話*流浪の天使

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「あんなに優しかった夫を──この男は平然と殺したのです」  嗚咽(おえつ)を漏らしながら言葉を紡ぐ。  職業柄、こんな光景は見慣れているが、やはり気の毒でならない。 「殺された理由はわかりますか?」 「私の夫は……ロイは、優秀な兵士でした。会社の中でも特に秀でた傭兵だったと聞いています」  こぼれ落ちる涙を拭いながら鼻をすする。  殺されたと言う男の名は、ロイ・フォードル。四十八歳。妻はアンジェリーナ・フォードル。三十五歳。結婚して五年ほどだという。 「この男はフリーの傭兵らしく。優秀な兵士を探しては、気まぐれにいたぶるのだと、噂で聞きました」  言葉を切りながらも懸命に説明する姿はけなげだ。 「いたぶる?」  なんだそれは?  それが本当なら、自分の邪魔になる人間を殺しているということなのか。しかも、楽しんで?  渡されたもう一枚の写真には、何度も刺された傷痕(きずあと)や、殴られた痕が生々しく浮き出ている男の遺体が映っている。  死因は頭を撃たれた事によるものだそうだがこの男はそれまで、死なないように攻撃を加えていたということになる。  確かに、体に見える銃痕はどれも急所を外れている。死ぬことが出来るまで、こいつは(ロイ)を痛め続けたのか。  腹立たしいがここで怒っても仕方がない。とにかく今は冷静に話を進めよう。
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