一話*流浪の天使

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「この男に面識は」 「ありません。私も、夫も、まったく知らない男です」  夫がただ優秀だったというだけでこんな仕打ちは、あんまりですと再び涙がこぼれた。 「ただ黙って逮捕されるのを待つだけなんて、そんなこと許せない。けれど、この男はとても強くて誰も太刀打ち出来ないと聞き、私は絶望しました。そんなときに、貴方を知ったんです」  主人の友人から、あなたならきっと受けてくれるだろうと── 「お願いします。流浪の天使と呼ばれる名うてのハンターのあなたなら、この男を必ず捕まえてくれると信じています」 「誰が付けたんだか。ガラじゃない」  肩をすくめて苦笑いを返すと女は首を横に振った。 「いいえ」  あなたはその名前に相応しい人です。  お世辞ではなく、素直な感情なのだろう。そう思うと余計に照れくさい。悲しみに暮れる相手に失礼かとも思うが未亡人というのは、どうしてこうも(つや)っぽく見えるのだろうか。 「お願い。クリア・セシエル」  立ち上がり、ふらつきながら近づいてその手を強く握った。  見下ろす美女の潤んだ瞳に目眩(めまい)を覚え、そのまま抱きしめかけるも頭を振って気を取り直す。 「じゃあ、アンジー。この男について、もっと情報が欲しい」  言うと、女はUSBメモリをすいとセシエルに差し出した。 「ここに、この男(ベリル)について私が調べた全てを記しています」  必ず、私の前に連れてきて──  
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