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今日は休日だったはずなのに、急用で家を出ていた。
送迎の車内を出て、天を突きそうなほど高いビルを見上げた。季節は冬だというのに、日光が眩しくて気温も昨日と比べて高い。もう少しで春が来るのではと錯覚しそうだ。
休日だから午前中とはいえ人通りはいつもの半分程度で、俺は軽く息を吐いた。
「おはようございます」
休日だからほとんど人はいないようだったが、秘書だけは出社していた。
おはようと挨拶をして、すぐに副社長室へ向かった。ドアを開けてすぐにコートを脱ぎ少し乱暴に椅子に腰かけた。
休日出勤なのに美月はわざわざ朝早くから起きて朝食を作ってくれた。いや、ほんと、全部可愛い。
早く戸籍変えてもらおう、と思っているとすぐに副社長室のドアをノックする音が聞こえた。
「はい、」
「失礼します、」
ノックをして入ってきたのは秘書の森岡さんだ。
彼女は5か国語を流暢に話し、東京大学主席で卒業したかなり優秀な人物だ。
秘書としては満点だ。
「こちら、来週の訪問先リストです。メールも送ってあります」
「ありがとう」
「あ、そうだ」
紺色のバインダーを俺に手渡すと、いつもはそのまま踵を返す彼女が立ち止まった。
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