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藤崎さんは私を見つめたまま、心配そうに何かを言おうとした。
でも、何も言えない様子でそのまま私は唯に手を引かれて彼から離されてしまった。
明らかに怒っている様子の唯に私は何も話しかけられなかった。
唯の車が停められていて、無理やりに近い形で助手席へ乗せられる。
唯が運転席のドアを開けて乗り込んでくる。すぐに乱暴に発進して、怒っているのは明らかだから憂鬱になりながら窓から外の景色を見る。
「…あいつがお前の好きな人?」
「…違うよ」
「相手はお前のことかなり気に入ってるみたいだけど」
あえて気に入っている、という表現をしたのか。嫌味のように聞こえて”この後”にあることを想定するとため息が漏れる。
「どこに行くの?」
「俺の家」
「…嫌だっていったら?」
「…」
毎回同じような質問を投げかける。意味のない質問だということはわかっている。
このままの関係がいいわけなどない。
そんなことはわかっていた。
「拒否した時点で、お前のすべてを奪う」
「す、べて…?」
ちょうど信号が赤になって交差点の前で止まった。
雨が少し降ってきたのか、折り畳みの傘を鞄から取り出して差す人がチラチラ見えた。
それ以上は聞けなかった。
でも、ここまで歪んだ人を見たことがない。
唯にいつか好きな人が出来ても、”おもちゃ”だから適当に遊ばれて捨てられるのだろうか。
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