第四章 海

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          *  水族館デートをきっかけに、僕とウミは頻繁にデートを重ねるようになった。  夕暮れの海辺で約束した通り、僕はウミをいろいろな場所へ連れていった。  僕たちがいるべき場所を求めて、あてもなく彷徨っていた。 『近所の公園』 『電車の中』 『図書館』 『誰も来ない小さな神社』 『大きなくすの木の根元』 『一カ月前に潰れたコンビニの駐車場』 『友人から借りた車の中』 『高架下の河川敷』  僕等は特別を見つけるために、敢えて日常にありふれている場所を選んでいた。  その場所でウミは絵を描き、僕は本を読んだり昼寝をしたり写真を撮ったりした。  僕たちの間に会話はない。言葉は必要なかった。  ウミに必要なのは紙の上に絵を描くことだけで、僕に必要なのはウミと同じ時間を過ごすことだけだった。  そしてウミの絵が完成すると、僕たちはその場を後にする。  「幸せだね」とウミが言い、「幸せだね」と僕も返す。  とびきりの笑顔でウミは言う。僕はこの瞬間が大好きだった。  この一言さえあれば、他のどんな言葉も必要ないと思える。  ウミは僕を必要としてくれていて、僕といることでウミは ”幸せ” になれている。  この事実だけで十分だった。  僕はデートで撮った写真をその日の内に現像する。  フィルムカメラに収めた写真は、現像するまで出来栄えは分からない。  ピンボケしているものや、思いのほか良く撮れたものが出てきたりもする。  そして何より、僕とウミの共有した時間を写真の中に留めることができる。  僕は写真を自室の壁に貼り付けていた。  一人になってからも、ウミとの時間を共有するためだ。  写真を眺めながらウミのことを考える。  次はどこに行こうかと想いを巡らせる。  僕はウミのことだけを考えていた。  どうすればもっと彼女を幸せにすることができるのか、その一心だけだった。  ――それなのに、ウミはいなくなった。           *
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