第四章 海

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          *  7月21日。僕たちは水族館に行く約束をしていた。  毎年、ウミの誕生日には水族館に行こうと決めていた。  彼女が風鈴を集めたいと言っていたことを覚えていたし、”ウミ” の誕生日に一番ぴったりな場所だと思った。  電話越しに「楽しみだよ」とウミは言った。誕生日前日の夜だった。  何度思い返してもウミの態度におかしなところはなかったように思う。  沈んでいる風でも、から元気を出している風でもなかった。  僕はウミにプレゼントするための鉛筆とスケッチブックを丁寧に鞄に忍ばせた。喜んでくれるだろうか。不安と期待が交互に押し寄せる。  ウミがこの鉛筆とスケッチブックを使って、たくさん絵を描いてくれたら嬉しい。そう思っていた。  正午を過ぎてもウミからは何の連絡もなかった。  待ち合わせからは二時間が経過している。僕は何度目かの電話をかけたが、繋がる気配はなかった。  ウミは自由奔放な性格だったが、時間を破ることは殆どなかった。  人生の貴重な時間を一秒たりとも無駄にしたくないと思っていたのだろう。  だからウミが約束の時間に遅れたことは、僕をひどく焦らせた。  結局、夕方になってもウミとは連絡が取れなかった。  携帯電話以外に、ウミと繋がれる手段を持っていないことに気づき、愕然とした。  こうして電波が届かなくなれば、僕たちはあっという間に引き離されてしまう。すぐ近くにいて、いつでも会えると思っていたのに、こんなにも容易く僕たちは引き離されてしまうのだ。  僕はウミの家へと向かった。実家住まいの彼女は、度々僕を部屋に招いてくれていた。だから、場所は覚えている。  チャイムを鳴らすと母親が出てきた。 「あら、幸生君じゃない。どうしたの? ひとり?」  母親はエプロン姿のまま出てきた。夕飯の支度をしていたのだろうか。 「ウミは帰ってきてませんか? 今日は一緒に遊ぶ約束をしていたんですけど、待ち合わせに来なくて」  母親は驚いた顔をした。 「ウミは朝から幸生君とデートだって出掛けたわよ。てっきり一緒だと思ってたんだけど」  僕の頭はいっそう混乱した。ウミはいったいどこに行ったのだろうか。  まさか、待ち合わせ場所に着く前に事故にあったり、さらわれたりしたのではないかと心配がよぎる。  僕の表情を見て、母親も不安の色を濃くした。 「どこに行ったのかしら……。幸生君、心当たりある?」  ウミの行きそうな所……。  僕は二人で行った様々な場所を思い浮かべる。心当たりは沢山あった。  この一年間に僕たちは数え切れないほどデートを重ねた。その一つひとつが想い出の場所だった。  だけど、ここだと断言できる場所は思いつかなかった。  僕は自分の不甲斐なさに唇をかみしめる。  彼氏のくせに、居なくなった彼女さえも見つけることができない。  僕はがむしゃらに走り始めた。  手当たり次第に、ウミと一緒に過ごした場所を捜索して回った。           *
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