第一章 風鈴

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          *  僕は珍しくポスターの前で立ち止まっていた。  改札を抜けてすぐのこの場所はいつも逃げるように通り過ぎているのに、この日は違った。僕の目を釘付けにして離さないものがあった。  ポスターは絵画の個展を宣伝するものだった。  そのポスターに描かれている絵に、僕は妙に引き寄せられていた。絵には海を目前にして、浜辺に佇む少女が描写されている。  少女はこちらに背を向け、彼方遠くを眺めていた。水色のワンピースだけを纏い、素足のまま今にも海へ歩み出しそうな雰囲気がある。  少女の視線の先、海の彼方には日差しが差し込んでいる。朝日か夕日かは分からないが水平線の先から伸びる陽光が少女めがけて光を放ち、水面が光を反射させる描写は見事だった。  何故こんなにもこの絵に引き寄せられるのか、自分でも分からなかった。  絵を描く習慣も鑑賞する習慣もない僕が、何故かこの絵からは目が離せなくなっていた。  しばらくしてその理由がなんとなく分かった。  僕はこの絵の中の少女をウミと重ねているのだ。  そばにいながら僕の方には目もくれず、海ばかり眺めている。  未来に絶望しているようでもあり、希望を抱いているようでもある。  そして結局、最後まで彼女の心の中は僕には分からなかった。  そんなウミの姿を映し出しているようで、僕はこの絵に魅了されているのだろう。           *
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