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"ちりんちりんちりん"
ようやく奏でられた音色は、懐かしさと温かさと安らぎを同時に運んできて、僕の胸の中に溶け込んでいった。
ウミがいつもの笑顔で「幸せだね」と囁きかけているような気がした。
二階のベランダに吊るされた風鈴たちはくるくると回っている。
汗が頬を伝い、顎にしがみついたが、虚しく落下してアスファルトに吸い込まれた。随分長い間眺めていたのかもしれない。
「さちお君?」
名前を呼ばれた。聞き覚えのある声だった。振り返った先にいた人物はやはり見覚えのある人で、僕は会釈を返した。
「今年も来てくれたのね。ありがとう」
ゆっくりとした喋り方はウミに似ていた。
「暑いでしょう。さあ上がって」
僕は促されるままに玄関をくぐった。背後で鳴っていた蝉の大合唱が遠のいていくのを感じた。
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