1.山の上のふしぎな場所

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 七歳の時に両親が離婚し、母と二人暮らしになってから、私は少しでも母の負担を減らすため、家事を手伝った。  雑誌の編集者として朝から晩まで働く母は、仕事の帰りが遅く、家のことはいつの間にか全部私の担当になっていたので、家事が好きなのでも得意なのでもなく、やらざるを得なかったというのが実際のところだ。  都会の手頃なマンションでの母との二人暮らしには、特に不満もなかったが、つい先日、母が長年つきあっていた恋人との結婚を決意した。  相手の長倉さんとは私もよく会っていて、いい人だとはわかっていたし、二人の結婚に文句などなかったが、「だったら私、お父さんのところへ行ってみようかな」と自分の口からぽろりと出たのは、我ながら意外だった。 『え? なんで? 和奏、再婚には反対?』  慌てて問いかける母を『まあまあ』と宥めている長倉さんとの結婚を、反対する気持ちなど、私には微塵もない。 『ううん、大賛成だよ』 『だったらなんで?』 『うーん……』  自分でもよくわからないが、『いい機会』だから、父のところへ行ってみようかと、瞬間的に頭を過ぎったことだけは確かだ。  母と離婚してから都会を離れ、遠い故郷の田舎へ帰った父とは、十年来会っていない。  折に触れて、母が手紙を書くようにと促すので、私は写真を添えた手紙を時々送っているが、父から帰ってくるのはいつも写真のみだ。  それも父本人は写っておらず、緑豊かな田舎の風景が写された写真ばかり。 『信治(しんじ)さんらしい……』  楽しそうに笑い、父が送ってくれた写真を居間のコルクボードに並べて貼っていた母が、どうして父と別れたのかを私は知らない。  母が寝食を忘れるほどに仕事に没頭していったのは、父のことを忘れるためもあったのだろうと今ならばわかるが、訊ねるタイミングをすっかり逃してしまった。  私の記憶に残る父は、部屋にこもってばかりで口数の少ない人という印象なので、今更あちらに訊ねてみても答えは貰えないだろうが、離婚の理由を訊いてみようかと思ったのも理由の一つではある。  それから――。
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