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毎年チョコをくれる君をいつしか好きになっていたのかもしれない。
家が隣で小さい頃よく一緒に遊んでいた1つ歳下の女の子。彼女はちょっと危なっかしくて両親に1人で遊びに行くことを許されず、僕はいつも付き添い人として彼女の面倒を見ていた。
2月14日に彼女から手作りのチョコレートを貰い、3月14日に僕が親に持たされたお菓子の詰め合わせを渡す。昔から続く僕と彼女の恒例行事。幼い頃はその意味なんて知らなくて大きくなった今もなんとなくやめられずにいた。
僕は今年、東京の大学に進学して一人暮らしを始めた。実家からは遠すぎて家族にはなかなか会えずにいる。まぁ、時代柄、帰ったら帰ったで周りの目が気になってゆっくりなんて出来ないだろう。そんなんだから今年のバレンタインは例の恒例行事も出来ないかな、なんて思っていた。
ついに今日は2月14日。もう午後の3時にもなるのに彼女からは何の音沙汰もない。少し残念に思う自分に期待してたんだと今更気づいて恥ずかしくなる。そんで少し悲しくなる。大学も春休みに入って毎日が暇。スマホのゲームもそろそろ飽きてどうしようかと悩んでいると電話がかかってきた。彼女からだった。驚きながら電話に出る。もしもし、と聞こえる懐かしい声。1か月前くらいに大学の授業のためにズームを使いこなせるようになりたいからと練習に付き合わされて何度も聞いていた声なのに…。いつの間にこんなに恋しくなったのだろうか。
彼女が東京の大学に受かったとか、3月9日に卒業式だとか、卒業したら一人暮らし用の家に移り住むとか、世間話で盛り上がっていたらインターホンがなった。どうやら宅配便だ。彼女と電話を切るのが惜しくていっそ無視しようかと思ったら、彼女からいったん切って荷物を受け取ってから今度はズームで話そうと言われた。
わざわざ断る理由もないから言われた通りにする。気乗りしないまま玄関から顔を出して受け取りのサインをした。誰からの荷物か見ておこうと差出人を見ると彼女の名前があった。慌てて中身を取り出す。そこには綺麗な紙に包装されたチョコレートと「すき」とだけ書かれたメッセージカードがあった。
いそいでパソコンを立ち上げる。オンライン授業が主流の今、パソコンを開いてからズームに参加する作業は最早プロだ。携帯に送られたIDとパスワードを入力しオーディオを接続する。ゆっくりと切り替わる画面にやきもきしながら今か今かと待つ。やっと出てきた画面にはいつもの笑顔を浮かべた君が映っていた。
やっほー、なんて軽くかわす挨拶。あまりにもいつも通りな態度に気が抜ける。「オンラインバレンタインだよ!手作りじゃないのは許してね!」、とイタズラが成功したような顔をしてニヤニヤと笑っている。してやられた。すごく悔しいのに画面に小さく映っている自分の顔はとても幸せそうだ。やっぱ好きだな、なんて思う。
でもやっぱり、やられっぱなしは性にあわない。だからパソコンの画面に向かって彼女へささやかな仕返しをしよう。「来月の14日、家に遊びに来てよ。手作りご馳走するから。…………あぁ、それと、キャンディも用意しとくね。」友達や知り合いの女子によくイケメンといわれる顔を最大限に魅せる笑顔で彼女に語りかけた。
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