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 社用車の運転席に乗り込もうとしていた福山さんが走る私に気付いてくれる。 「岩見さん?」 「あのっ、福山さん。その……」 「なに?」  手汗が包みに染み込んで震えている。 「もしかしてチョコ? 今年はくれないのかと思ったよ」 「え……」  私からのチョコを期待してくれてたってこと?  それに毎年渡してる事も覚えてくれていた事が途轍もなく嬉しい。  福山さんから嬉しい言葉を貰えた。これ以上ないくらいのご褒美じゃないか。  もう玉砕してしまおう―― 「福山さん」  心臓がうるさい。口から飛び出そうになるのを必死に抑え、早くも涙が出そうな瞳に力を入れる。 「私の気持ちです」  ハートの箱。気持ち悪いくらい私らしくもないピンクのラッピングには私の気持ち――好きが詰まっている。  福山さんの目を直視できず視線は下。私の情けない顔が写りそうなほど綺麗に磨かれた革靴に願う。 ――受け取って! 「気持ち? ……うん。ありがとう岩見さん」  差し出した箱を優しい声で福山さんは受け取ってくれた。 「お世話になりました。福山さんのこと尊敬してずっと好きでした。ありがとうございました」  がばりと深く頭を下げて踵を返すと脱兎の如く走る。 ――言った! 頑張った私! 玉砕おめでとう!
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