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遅すぎるよ
「もう一度やり直せないかな?」
突如目の前に現れた彼は思い詰めたような表情で切羽詰まったように声を出した。
「俺、一緒にいることが当たり前すぎて…別れてから気づいたんだ。本当にごめん。」
彼は目に涙を浮かべながら悲しそうに私を見つめてくる。きっと、彼なりにいっぱい考えて考えて言葉を出したんだろうな。
「いや、厚かましかったよな。友達から…いや、最初から始められないかな。」
『…もう遅いよ。』
「えっ…。」
いつも通り穏やかに話そうと思った。
でも、無意識に自分から出た声は低く冷たいものだった。頭では考えているのに、口が声が勝手に喋りだして止まらない。
『もう8年前のことだよ。今、彼氏いるし…私さ幸せなの。』
「えっ、あっ…そっか。そうだよな。」
『アンタが付き合ってる人いるから私達別れたじゃん。もう一度やり直せないかな?何言ってんの?』
「……そうだよな。俺、馬鹿だ。ごめん。」
『悪いけど無理だから。』
「…本当にごめん。」
俯いた彼の表情は見えなかった。
でも、彼が立っているアスファルトの上には雨の痕がついている事に気がついた。
それでも、私は気にせず彼の側を通り過ぎた。
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