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ただ待つだけ
二人は今日も現地調査と監視の仕事に勤しんでいなかった。二人は本社から遠く離れたこの僻地でしっかりとサボっているのだ。
「麻雀も飽きたな…。かと言って将棋と囲碁もすでに飽きている…。クロスワード、謎解き、読書、ゲーム…、‼︎そういえば新作はいつ発売だったか?あのゾンビゲーの第八弾もそろそろのはずでは⁈」
「新作は来月だ。ゾンビゲーは出ではいるが未だにハードの抽選に外れ続けている…」
「フォーがあるだろ⁈もう我慢ならなねぇ、さっさとプレイしよう!」
「馬鹿言え!せっかくの新作を旧ハードでプレイするなんて愚の骨頂!俺は絶対に許さんからな‼︎」
二人はこのような醜い争いを毎日続けていた。最近ではもっぱらゲームに情熱を燃やしていて三十数年前の初期モデルから順に進めて来たが既に追い付いて新作を待ち遠しにしていたが、それがまた醜い争いの元凶となっている今日この頃なのである。
“ビィー!ビィー!”
取っ組み合いの最中に二人の仕事場兼住居の呼び鈴が鳴った。二人は予定に無い呼び鈴に二人して固まって玄関の方を凝視した。
“ビィー!ビィー!”
間髪入れずに再び呼び鈴が鳴る。二人は部屋の小窓から恐る恐る外の様子をうかがった。するとそこには本社に居るはずの直属の上司である部長がぶっきら棒な顔をして立っていた。
「や、やばい!抜き打ちだ!」
「ま、まさかこんな遠くまで来るなんて…、どうする⁈」
二人は額から変な汗を滝のようにかいていた。慌てふためいて焦ったが今さらどうする事も出来ない。苦し紛れにゲームや玩具やらを部屋の隅の方に押し固めたりしていると玄関の鍵が外れ、ドアを開けて上司が入って来た。
「汚ったない部屋だな…」
「こ、これはこれは!遠路はるばるこんな辺境の地まで…!いやはや、事前に言ってくだされば我々もきちんと準備をしてですね…」
「御託はいい。それにそれでは抜き打ち視察にならんだろう?」
二人は自然と部長の前に整列していた。変な汗は勢いを増して全身の毛穴という毛穴から爆噴していた。
「君たちは会社でも前任の現場でも非常に真面目で優秀で仕事も速かったと私は記憶していた。だが、私のその記憶はどうやら間違いだったとここに来て一分ほどで思えてきたのだが、君たちはどう思う?」
二人は何も言えなかった。認めればそれは自分たちがろくに仕事もせずに遊び呆けていた事を認める事になるし、かと言って弁解の余地も言い訳も出来ないほどに状況が悪いからだ。
「他にもいくつかの現場視察をして来たが君たちのそう、ここが一番だ。断トツに一番酷い。
監視員は二人して怠けて遊んでいるし、ろくに仕事をしていない。タバコを蒸して菓子を食い、ゴロゴロと寝っ転がり、漫画を読んでゲームをして挙句には小競り合い。そして今慌てふためき青白い顔をして大汗をかいて私の前に立っている。これではまるで給料泥棒ではないか。何か言いたい事はあるかね?」
二人はうつむいていたが一人が口を開いた。
「お、御言葉ですが部長…、一つだけ良いでしょうか…?」
「ほう、言ってみろ」
「た、確かに我々はろくに仕事もしていないし、ダラけて遊んでいます…。で、ですが定期報告書の通り、事は至って順調に進んでいます」
「ほう」
「その理由はこの星の現状にありまして、我々が案内を致しますので一度現場を実際に見て頂けないでしょうか…?」
「…。まぁ、良いだろう」
三人は部屋を出た。そして数十分後帰って来た。
「まるほどな、確かに我々が手を下すまでも無いか…」
「分かってもらえて良かったです!我々はただ待っていれば良いだけの状況なのですよ。そうすればこの星の支配種は争いや環境破壊で勝手に自滅するのです。これなら経費的にも宇宙法の倫理的にも利点しかないのですよ。この星をてに入れるにはただ待っているだけでいいで良いのです」
そう言って星外生命体の二人はほくそ笑んだのであった。終
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