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「いっやー、ヒカルちゃんてけっこう見てんだねえ」
突として話に割りこんできたのは、もちろん坂本さんだ。
「俺もヒカルちゃんと同意見。まったく一緒。気が合うって素晴らしいよね。ね? ヒカルちゃん?」
そう言いながらお気に入りの姉へとにじみ寄っている。
身構えられてしまっているのも気にとめず。
「あのね、俺もこう見えてわりとカンが働くほうだと思うんだけども、こっちの読みも一緒なのか、俺と意見交換しない?」
「意見交換?」
「そう、意見交換。まあ来てよヒカルちゃんこっちに」
姉はひとり、廊下の壁ぎわへ引っ張っていかれた。
坂本さんによって。
「ちょっと!」
その坂本さんを姉がはたいたのは、いきなり顔を近づけてきたのを非難してのことだった。
「や、変なことしないってマジで。意見交換するだけだから意見交換」
叩かれたって坂本さんはお構いなし。飄々と、姉の耳に顔を近づけていく。
そのあとはふたり、こそこそと内緒話に入ってしまうのだった。
あたしから少し離れたところで。
あたしをのけものにして。
やがて
「……あー」
という姉の、残念そうな低い声。
ゆっくり振り返ってきて、あたしへ冷めたまなざしを向けてくる。
なんだなんだ何なんだ。
なにを話してたんだ、ふたりして。
「そう思わなかった? ヒカルちゃん」
「……まあ。そう言われれば、って感じですけどね」
「でしょ?」
「でもあたし奥村先生のことよく知らないから、それには同意しがたいんですけど」
「いやだってヒカルちゃんさ、さっきの従姉弟コンビのことは大して知りもしないのに自信満々で言いきってたじゃん!」
「……まあ、そうなんですけど」
含みをもってニヤニヤしている坂本さん。
納得がいかなそうに口をへの字にしている姉。
そんなふたりの視線を浴びながら、あたしは眉をひそめていた。
なんともいえぬ感じの悪さに意見もできずに。
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