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「えっ、あのひと学生じゃなかったの? じゃあどこ勤めのひとなわけ? 何カンケイの仕事してんのさ?」
(それに、新年度からうちのどっかのアパートに住むんでしょ?)
(あのひと、どこに入居すんのさ?)
(何号室の予定?)
姉の質問はマシンガンのごとくだ。
連弾で放たれてくるのを
「まあまあまあまあ」
先ほど、うっかり個人情報を漏らしてしまった母が笑ってかわしていた。
「やー、でもすっかり忘れちゃって、悪いことしたわあ。ちょっと電話して謝ってくるわワタシ。いま奥村さん自宅にいるべかねえ」
言いながら母が買い物袋をあたしに押しつけてくる。でっかいのをふたつとも。
「――ん? お母ちゃん、一体どういうことだこれ」
「いや、ねえ? お母さんこれから奥村さんに電話しなきゃなんないから、真澄がこれ冷蔵庫にしまっといて。あと親子丼よろしく。鶏モモ氏も玉ねぎ子も買ってあるから真澄が作っといてよろしく」
「またあたしが作んのかい! お母さんあんた最近、材料買ってくるだけじゃんよ」
「だってえ、真澄のがワタシよりごはんつくるの上手じゃーん」
もうすぐ五十になるオバちゃんが、両手を組んてしなをつくってくる。
たかがスーパーに行くぐらいでファンデマスカラ眉毛チークにアイシャドウに口紅を、塗りたくって描きまくって長い髪をカーラーしまくって、必死に若ぶっているマイ母ちゃんめ。
「それともヒカルに作ってもらうかい?」
「……あー」
こたつにいる姉に目を向けたら、すでにケータイを手に持ってポチポチとボタンを打ちつけている。
それでいて、ちゃっかりあたしたちの会話を聞いていたのか
「ハラ壊したくなかったら、あたしに作らすのはやめときー」
なんて、食事はツクリマセン宣言をキッパリしてくる。
そんなものだから母も遠慮ない。
「じゃっ、ワタシ、ハラ壊したくないんで。真澄ちゃん親子丼よろしく」
くるくるにカールさせた長い髪をふわっと見せつけて、ついでにシャネルの香りも残しつつ、居間から立ち去っていくのだった。
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