01・うちの前にいたイケメンくん

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「えっ、あのひと学生じゃなかったの? じゃあどこ勤めのひとなわけ? 何カンケイの仕事してんのさ?」 (それに、新年度からうちのどっかのアパートに住むんでしょ?) (あのひと、どこに入居すんのさ?) (何号室の予定?)  姉の質問はマシンガンのごとくだ。  連弾で放たれてくるのを 「まあまあまあまあ」  先ほど、うっかり個人情報を漏らしてしまった母が笑ってかわしていた。 「やー、でもすっかり忘れちゃって、悪いことしたわあ。ちょっと電話して謝ってくるわワタシ。いま奥村さん自宅にいるべかねえ」  言いながら母が買い物袋をあたしに押しつけてくる。でっかいのをふたつとも。 「――ん? お母ちゃん、一体どういうことだこれ」 「いや、ねえ? お母さんこれから奥村さんに電話しなきゃなんないから、真澄がこれ冷蔵庫にしまっといて。あと親子丼よろしく。鶏モモ氏も玉ねぎ子も買ってあるから真澄が作っといてよろしく」 「またあたしが作んのかい! お母さんあんた最近、材料買ってくるだけじゃんよ」 「だってえ、真澄のがワタシよりごはんつくるの上手じゃーん」  もうすぐ五十になるオバちゃんが、両手を組んてしなをつくってくる。  たかがスーパーに行くぐらいでファンデマスカラ眉毛チークにアイシャドウに口紅を、塗りたくって描きまくって長い髪をカーラーしまくって、必死に若ぶっているマイ母ちゃんめ。 「それともヒカルに作ってもらうかい?」 「……あー」  こたつにいる姉に目を向けたら、すでにケータイを手に持ってポチポチとボタンを打ちつけている。  それでいて、ちゃっかりあたしたちの会話を聞いていたのか 「ハラ壊したくなかったら、あたしに作らすのはやめときー」  なんて、食事はツクリマセン宣言をキッパリしてくる。  そんなものだから母も遠慮ない。 「じゃっ、ワタシ、ハラ壊したくないんで。真澄ちゃん親子丼よろしく」  くるくるにカールさせた長い髪をふわっと見せつけて、ついでにシャネルの香りも残しつつ、居間から立ち去っていくのだった。  
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