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甘じょっぱく味づけしてくつくつ沸騰したタレの中、切り刻んだ玉ねぎがしなっしなに煮えている。
鶏もも肉も、醤油色に染まるぐらい火が通っている。
すべて照りついてきて、いい香り。
ここで、母が買ってきたひとパック38円の玉子様のおでましだ。
何個入れようか。四個か、いやけちって三個にしておこうか。
玉子のパックを手に持って、うーん。と考えこんでいたら
「遠慮せず四個使えばいいんじゃなーい? どうせ激安だったんだしぃ」
ふわっとシャネルの香りがしたかと思いきや、耳元で母に囁かれていた。
「うわっ! びびったあっ!」
持っていた玉子のパックをぽろん、と落としそうになってしまう。
いつキッチンにきて、いつ真隣にきていたんだ、この化粧の濃い派手な母ちゃんは。
「あー、ごめんごめん。びびっちゃった? あのね、もう一回びびらせちゃうかもしんないけどマスミン、いーい?」
「うわ、え、なにその呼び方」
マスミン。とかなれなれしく言ってきて。
こわいんだけど。
しかも内緒話するみたいに小声で。
こわいんだけど。
いやな予感しかしないんだけど。
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