01・うちの前にいたイケメンくん

13/14
前へ
/143ページ
次へ
   甘じょっぱく味づけしてくつくつ沸騰したタレの中、切り刻んだ玉ねぎがしなっしなに煮えている。  鶏もも肉も、醤油色に染まるぐらい火が通っている。  すべて照りついてきて、いい香り。  ここで、母が買ってきたひとパック38円の玉子様のおでましだ。  何個入れようか。四個か、いやけちって三個にしておこうか。  玉子のパックを手に持って、うーん。と考えこんでいたら 「遠慮せず四個使えばいいんじゃなーい? どうせ激安だったんだしぃ」  ふわっとシャネルの香りがしたかと思いきや、耳元で母に囁かれていた。 「うわっ! びびったあっ!」  持っていた玉子のパックをぽろん、と落としそうになってしまう。  いつキッチンにきて、いつ真隣にきていたんだ、この化粧の濃い派手な母ちゃんは。 「あー、ごめんごめん。びびっちゃった? あのね、もう一回びびらせちゃうかもしんないけどマスミン、いーい?」 「うわ、え、なにその呼び方」  マスミン。とかなれなれしく言ってきて。  こわいんだけど。  しかも内緒話するみたいに小声で。  こわいんだけど。  いやな予感しかしないんだけど。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加