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「実は先ほどの奥村さんねえ、高校の先生なのさ」
「……は?」
「あれまその反応。やっぱマスミン知らなかったのかあ。いや奥村さんのことマスミンが知ってなくって、ワタシ意外。やー、ね? 契約書類とか見てたらね? 職業欄んとこに書いてあったのさ。教員って。しかも勤務先、道立江星高等学校って」
道立江星高等学校。
って、それ。あたしが通ってる学校だ。
「―――はああっ?」
驚きのあまり叫んでしまったら、母が「しっ!」と人差し指を口の前にあてていく。
いちだんと声をひそめ、仰せつけてきた。
「声でかいっ。ヒカルが知るとなんか、きゃーきゃー騒ぎ立てそうでめんどいから、黙っときっ」
騒ぎ立てそうでめんどい。と言われてしまった当の姉・ヒカルは、ちらりとこちらを見たものの、気にすることもなくまたケータイとにらめっこ。ダウンジャケットを着こんだまま、こたつぶとんに入ったまま、ぽちぽちとボタンを打っている。
「や、でも、じゃあ何であたしにはいま知らせるわけ?」
「や、だってえ。マスミンは奥村先生の学校に通ってんだしい。どうせ、そのうち知るだろうしい。と、思ってえ」
そこで若作りオバさんがしなをつくってくる。
きもいぞ、母ちゃん。
「っていうかマスミン、おつかい頼まれてくれなーい?」
「……はあっ?」
「あのねえ。明日学校行ったらねえ。奥村先生に渡してほしいものがあるのようー」
くつくつくつ。と、甘じょっばく味づけしたタレがフライパンの中で煮え続けていた。
鶏もも肉と玉ねぎを、醤油色に染めあげて。
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