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学校から帰ったら、うちの玄関前に人がいた。
男だった。
けっこう若い。
背も高くて足ながい。
呼び鈴はとっくに鳴らしてあるらしい。
でも反応がないから困っているといったふう。腕組みをしてうちのボロい玄関ドアとにらめっこ。
のあと、おっきな溜息といっしょにうつむいていた。さらさらな髪の毛が、そのひとの動きにあわせて垂れていく。
たぶん、学生だと思う。
近くにある大学の。
マイ母ちゃんが貸し出してるアパートに住んでる人なんだと思う。
現に、うちのとなりに構えてあるアパートに住んでいるのは全員、大学生だったはず。
それに服装もそれっぽい。黒のショートブルゾンにブルーデニム、アディダスっぽいスニーカー。っていう、そこらの大学生がよくしてそうなカッコウだ。
「あのう」
声をかけるとそのひとは、ふいっと顔を向けてきた。腕組みをほどきながら。
あれ、意外と爽やかくんだった。
けっこうイケメン。
いやいや一般的観点からして間違いなくイケメン。
特に目がいい。フォルムがなんかいい。すうっと切れ長でありながらも大きくて。
でも奥に、何か真冬のように冷たいものを抱えこんでそうだけど。
――なんて思ってしまったことは表に出さずに聞いていく。
「うちのアパートに住んでる人、ですかね? もしかして鍵でもなくしちゃいましたか?」
「――はっ?」
と、イケメンくん。口をひらくなり白い息。
寒そうだ。鼻の先がなんだか赤い。薄暗くてもわかるくらいに。
いつからここにいたのだろう。
でもこのイケメンくん、高校の制服にマフラーぐるぐる巻きのあたしへ一瞥をくれたあと、なぜだか眉をひそめだす。
なんでだろ。見てるだけで寒そうなのかなコート着てないと。タイツもはかずに素足だし。
「あのう?」
「……あ、や、鍵をなくしたとかじゃなく。俺、来月から入居する予定の者なんですけど。あのそちら、大家さん。の、娘さん? なんでしょうか?」
おっとイケメンくん。クリアで張りのある声ではないですか。もう少しくぐもった、低い声の持ち主かと思いきや。
「あっ、はい。そのとおりでごじゃい。わたくしゃ、大家の娘なんでごす」
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