01・うちの前にいたイケメンくん

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 わざとじゃない。  もちろんふざけてもいない。  ただ口がまわらなかっただけ。  おかしな返しをしたことがミジメったらしくて思わず「うへあ」とつぶやけば。  イケメンくん、頬をふくらませてプッと吹き出していた。  そのあともククククク。こらえきれない笑いとともに肩を揺らしてくる。 「……そう、だよね。娘さん、なんだよね」 「……」  はい、そうです。  あたしゃ娘です、大家の。  でも、あー恥ずかしい。穴があったら入りたい。  でもイケメンくんあなた、かなりかわいく笑うんすね。  いやもうね。素っ気なさそうなくせに、きゅーうにかわいい笑顔を見せつけないでくださいよ。くにゅっと出てきたエクボなんか超めんこいじゃないですか。 「――あのー、うちのお母さんに前もって行くって、伝えてたり、してます? して、ませんよね? や、うちのお母さんてちょくちょく出かけちゃう人なんですよ。フイっていきなり来られてもいないこと多いんで」 「……あー、と俺。いちおう、ご連絡してから伺ったんですけど」 「え? そうなんですか?」 「ええ、まあ。午後五時に伺うって、あらかじめ伝えてあったんですけど」 「……えええー。あっらあ。それはそれは、うちのお母さんが」  どうもスミマセンでした。  と、ぺこり。頭をさげていく。  顔をあげると今度は、かわいくない笑み――引きつった笑みを浮かべたイケメンくんがそこにいた。  うん。  わかる。  困るよね。  約束をぶっちぎられて、途方に暮れてるんだよね。  でもそれだけじゃなく、あたしに対して困っているようなのはなぜなんじゃ。 「あのう、学生さん?」  と切り出せば、イケメンくんはますます戸惑ったようにうすく笑む。  なんなんだ。  でもまあいいや。気にしない。
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