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わざとじゃない。
もちろんふざけてもいない。
ただ口がまわらなかっただけ。
おかしな返しをしたことがミジメったらしくて思わず「うへあ」とつぶやけば。
イケメンくん、頬をふくらませてプッと吹き出していた。
そのあともククククク。こらえきれない笑いとともに肩を揺らしてくる。
「……そう、だよね。娘さん、なんだよね」
「……」
はい、そうです。
あたしゃ娘です、大家の。
でも、あー恥ずかしい。穴があったら入りたい。
でもイケメンくんあなた、かなりかわいく笑うんすね。
いやもうね。素っ気なさそうなくせに、きゅーうにかわいい笑顔を見せつけないでくださいよ。くにゅっと出てきたエクボなんか超めんこいじゃないですか。
「――あのー、うちのお母さんに前もって行くって、伝えてたり、してます? して、ませんよね? や、うちのお母さんてちょくちょく出かけちゃう人なんですよ。フイっていきなり来られてもいないこと多いんで」
「……あー、と俺。いちおう、ご連絡してから伺ったんですけど」
「え? そうなんですか?」
「ええ、まあ。午後五時に伺うって、あらかじめ伝えてあったんですけど」
「……えええー。あっらあ。それはそれは、うちのお母さんが」
どうもスミマセンでした。
と、ぺこり。頭をさげていく。
顔をあげると今度は、かわいくない笑み――引きつった笑みを浮かべたイケメンくんがそこにいた。
うん。
わかる。
困るよね。
約束をぶっちぎられて、途方に暮れてるんだよね。
でもそれだけじゃなく、あたしに対して困っているようなのはなぜなんじゃ。
「あのう、学生さん?」
と切り出せば、イケメンくんはますます戸惑ったようにうすく笑む。
なんなんだ。
でもまあいいや。気にしない。
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