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なんか、フツーな名前だな。
もう少しいまっぽい名前のひとかと思ってた。ヒロトとかアツトとかなんか、そんな感じの。
――なんて考えちゃってもお口はチャック。
「じゃあ、すみません。俺来たこと、大家さんに伝えておいていただけますか?」
「はい、それはもう!」
勢いよくうなずいたのは姉だ。
「……お願いします」
ふたたびお辞儀してきたオクムラさんは、さくっと背中を見せつけてくる。
いち早くここから去ってしまいたい。そんな雰囲気をうしろ姿から漂わせて。
急ぎ足でオクムラさんが向かった先は、うちのとなりに構えているアパートだった。母が貸し出してる二階建てアパート。そこの、車八台分停めておけるのに空いている駐車場。
無造作に停めてあった黒っぽい車(くわしくないから車種とか知らん)の鍵をあけ、オクムラさんはさっさと乗りこんでしまった。
すぐに轟いたエンジン音。薄暗い駐車場にぱあっと点るヘッドライト。
雪がとうに消えて乾ききったアスファルトを、タイヤ四輪がゆっくりと這っていく。
オクムラさんが運転する車は歩道をまたぎ、大通りの方角へ左折して行ってしまった。
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