01・うちの前にいたイケメンくん

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   母がうちへ帰ってきたのはそれから10分後だった。スーパーのでっかい袋ふたつを両手にぶら下げて。 「あっ、そうだそうだ奥村さんね? そういや図面取りに来るって連絡もらってたわあ。でもすっかり忘れちゃってた。だってさあ、今日、スーパーで五時から玉子ひとパック38円で売るってあったからあ。それで頭いっぱいになっちゃってたわあ」    オクムラさんのことを伝えると、のん気に言い訳したあげくケタケタケタっと母は笑う。  かわいそうなオクムラさん。  玉子ひとパック38円のタイムセールなんかで忘れ去られたあげく、笑いとばされちゃってるよ。  しばれる外で待ってたのに。  でも確かに激安すぎだわ。玉子ひとパック38円だなんて超ナイス。 「お母さんさ、契約の時とかにオクムラさんと会ったの? それとも不動産屋にまかせっきり?」   とはわが姉、(ヒカル)。いまだダウンジャケットを着こんたまま、こたつぶとんに足を入れて温ぬくまっていた。 「ん? 奥村さんに? もちろん契約の時にはちゃんとお会いしたよ?」 「じゃあわかるよね、けっこうなイケメンだったの。なのにあの顔ば拝まず、玉子買いに行くほうチョイスしちゃったんかいお母さんは」 「あ、そうだよねえ、確かにカッコよかったよねえ、奥村さんて」 「や、まずね、久しぶりにオッ! てなるほどいい男だったんだわ。あれがうちの大学のひと……なワケないか。いたら噂になるだろうから、あたしも知ってるはずだもん。したら、もういっこの教育大のほうに行ってんのかあ、オクムラさん。いいなあ教育大の女子(おなご)ら。毎日アレ拝めるとか」 「え? ヒカル、あんた奥村さんのこと学生だと思ってんの? 違うよ? あのひと、れっきとしたシャカイジンだから」  さららーと個人情報を漏らしちゃった母が、ちらり、あたしに意味深な視線を投げつけてくる。  なんなんだ。  でも、そうか。  あのオクムラさん、大学生じゃあなかったんだ。  あ。やば。  あたし、オクムラさんに向かって「学生さん」て呼びかけちゃってたよ。何度か。  だっからオクムラさん、ムズムズした顔であたしのこと見てたんだなあ。
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