七、

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 大学生で二人めになる彼女と四年付き合い、疑問は確信へと変わった。瑞貴は恋愛対象となる性別がなかった。それ以来誰とも付き合っていないし、二度と付き合わないことに決めていた。もしかしたら好きになるかもという安易な気持ちは、相手を傷つけるだけでなく自分をも傷つける両手の刃なのだ。  あれから十年、誰も好きになることはなかった。今までなくても、これからはあるかもしれないという可能性はもちろん否めないが、もう考えるのも億劫なほど〈好き〉という感情から遠ざかっていた。  そんなもの初めからなかったと思えたらどんなに楽だろうか。なかったのかもしれない。なかったのかもしれないが、周りには初めから〈好き〉が存在する人だらけで、とうてい瑞貴自身にも存在しないとは思えないほど身近で、それなのに地球の反対側を探しても絶対に見つからない気がした。  ただし考えるのが億劫というのはその言葉どおりの意味で、特に悩んでいたとかそういう意味では一切ない。疑問を抱いてインターネットで検索し、瑞貴と同じような人がたくさんいるとわかるとすんなりと受け入れられた。例えインターネットで見つからなかったとしても、自身でその答えにたどり着いたと思う。  人に恋愛感情をもてないのであればしょうがない。無理に誰かと付き合おうとも結婚しようとも思わない。だってそういうものは自然に湧き上がる気持ちだと思うから。  瑞貴は自分が〈好き〉がない人間なのだとわかると、霧が晴れたようにスッキリした心地がした。
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