十、

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「ほらぁ、思わせ振りな態度やめて下さいよ。友達としてじゃなくて、瑞貴さんがオレに興味をもったときに家に招いて下さい。それまで待ちますから」  大雅は憮然とした表情をしながらも誘いをきっぱりと断った。 「ふーん、いいんだね?それで」 「はい、いいです。瑞貴さんの気持ちがはっきりするまで待ってます」  瑞貴はにやりと左端の口角を上げた。 「俺が一生お前に興味をもたなかったら、二度とウチに来るチャンスはないわけなんだけど、それでいいんだよな?つまりこのチャンスを棒に振ると、もう二度と俺の家の門をくぐることはない。まあ元々、門なんかないんだけど俺の家には一生上がれないということを意味する。それでいいんだな?ホントにもったいないことするよなぁ、非常~に残念だ。くくく……」  瑞貴の声は踊るように弾み、大雅をからかうことに悦が入っているようだった。 「ん、ええっ?そういうことですか?一生、瑞貴さんの家に上がれない……」 「そ、そういうこと。二度とこんなチャンスはないだろうね、残念残念」 「ちょ、ちょ、止めます。行きます。今すぐ行きます、煩悩断ち切ります!」  瑞貴はくっくと声を押し殺すようにしてまた笑った。 「あれ、俺の気持ちがはっきりするまで来ないんじゃなかった?」 「いや、友達として行きます。何もしませんよ?ただ、近づけるチャンスなので。オレが家に行ったことで、オレに何か興味をもってくれる可能性もあるわけですよね」 「そりゃあ、ないとは言い切れない」 「ですよね。距離が縮まる可能性もありますもんね?よし、行きましょう。今すぐ行きましょう!」  急に元気になる大雅を見て瑞貴はついに大笑いした。  ちょっぴり大人になった大雅に再会して初めてわかったことがある。人に愛されるということは、アレルギー反応みたいに全身がうずうずしてむず痒い。こっぱずかしくてくすぐったい。それなのに手放したくないと思ってしまうものだ。  瑞貴にとって初めての自分、自分でも知らなかった新しい自分を見つけた気がしてワクワクした。  この先に何があるのかさっぱりわからなかったし想像もつかなかったが、大雅の側にいれば、また新たな自分に気がつくことがあるかもしれない。そういうのも悪くないと思う。  そう一旦思いだしたら、もうしばらく大雅の隣にいてもいい、いや、隣にいたいなと思う自分がいることに瑞貴は気がついた。  ふと顔を上げると、大雅は目をぱちくりさせて家へ案内するように強く促す。急がないと瑞貴が心変わりするかもしれない、という不安ともとれるものすごい圧を感じてまた笑いそうになるが、そこはあえて下を向いて平常心を装う。  瑞貴はふわっと伝票を手に取り気怠げに席を立つと、レジに向かってのんびりゆっくりと足を進めた。 「それ、わざとですか」  瑞貴のうなじ辺りがぽっぽと熱くなる。 「何が」 「いや、わざとじゃないならいいですけど」  瑞貴の背中のすぐ後ろに大雅の立つ気配を感じる。人が側にいるという感覚を味わっていると、うなじから全身へと熱が伝わって妙な高揚感を覚えた。   (了)
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