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「悪阻だわね。」
「悪阻かぁ…」
エリカが既にタイマーをセットしていた炊飯器からお米が炊ける匂いを嗅いだ瞬間、急に気持ち悪さが襲ってきた。
「で、病院は?」
「まだ…」
「話すの?」
「相手に?ううん、言わないつもり。」
言えるわけない。
困らせるだけだ。
それに私と彼はーーー
「あんた、作家と担当の立場がどうとか年下だからどうとかクソつまんないこと考えてるんでしょ?」
「ぐふっ…」
綺麗な顔してるのに昔からエリカって口が悪いんだよね。
「ぐふってなによ。大体わかるわよ、あんたのことなんて。だけど、さっきの話じゃないけど、言わなきゃわかんないって事もあるじゃない?」
言わなきゃわかんないことか…
確かにエリカが小説家になりたかったなんて知らなかった話だ。
「何も話さないってのはフェアじゃない気がするの。相手の人にとってもその子にとっても。」
「どうして?だって相手はきっと望んでない…に決まってる。」
10歳も年上から子供ができましたなんて言われたら失踪事件になりかねない。
「ほら、また。あんたの悪い癖。直ぐに決めつける。私の事もそうだったでしょ?よくそれでそこそこ売れる小説書いてるわよね。」
「そこそこは余計だよ…これでもなんとか本書いて食べてる。」
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