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幼い
圭が小さくため息をついた。
「好きって言わなかった? おれ」
「……言った」
「信じてないの?」
「信じるとか、信じないとか、そういうんじゃないんです」
言いながら、太一はあらためて自分の気持ちに気づく。言葉はいらない。形もいらない。欲しいものなんか、なにもない。
「おれは圭さんが好きです。……でもそれって多分、圭さんの気持ちとか、どうでもよくて。ただ勝手に、好きでいただけ、だったんです」
あまりにも幼い感情で、恥ずかしくていたたまれない。見返りを求めない、というのでもなく、相手の気持を無視していただけ。
「それに、真に受けちゃ、ダメじゃないですか。それ受け入れちゃったら、おれ、……バカになりそう」
「……どうして?」
ささやくような声で、先を促される。今まで口にしたことのない気持ち。自分でも、蓋をしてきた気持ち。
「だって、そんなの、しあわせすぎるし。……圭さんの隣にいられるだけでしあわせなのに、圭さんがおれを好きとか、そんなの、頭パンクする」
おかしなことを口走っている。さぞ呆れただろうと思うと顔を上げられない。圭はしばらく黙って肩を抱いてくれていた。
「…………」
長い沈黙のあと、肩に置かれた圭の手に、ぐっと力が入った。
「ふは」
「……え、」
息が漏れたように、圭は笑った。
「ぁごめん。……やっぱ無理、がまんできない」
どうしようもなくニヤける口元を隠すように手で押さえ、圭は下を向いてしまった。
「やっぱりバカなこと言ってますよね、おれ。あ、大丈夫です、信じてないですから。そんなのあり得ないって、」
わかってますから。
「初めて言われた!」
バッ、と顔を上げた圭は、小さな握りこぶしをつくり、何かを噛みしめるように目を閉じていた。
「け、圭さん?」
「太一くん!」
「わあっ」
今度は急に、強く抱きしめられる。勢いあまって、ベッドに押し倒される形になった。
「ちょっと、なに、どしたんスか」
展開についていけなくて太一が軽くパニクっていると、圭はやっぱり噛みしめるように太一を抱きしめ、深く息を吐いた。
「初めて、『好き』って言われた!!」
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