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待つ彼
17時を過ぎた。ドアノブにカードキーをかざしてロックを解除すると、圭は静かに室内に入る。
滞在も二日目なので、荷物は少々乱雑に置かれている。カバンから飲みかけのミネラルウォーターを取り出し、テーブルに置いた。それからポケットのスマホをベッドの上に放り投げる。ネクタイを外し、着ていたものをハンガーに掛け、そのままバスルームへ。
やたらに水圧の高いシャワーを浴びた後、髪はタオルで覆い、アンダーウェア一枚だけ身につけた状態で部屋に戻る。ベッドに仰向けに倒れ込み、腕をばんざいの形にして手探りでスマホを持ち上げた。
まだ18時にもならない。彼が来るまで一時間以上だ。
下のロビーで待ち合わせて、いつもの焼肉屋に行って、その後はこの部屋で過ごして。
「……」
仰向けのまま、顔の上でスマホを操作する。画像フォルダから彼の写真を選んで表示して、指で顔を拡大した。
「顔がいいな」
ふと、声に出した。
顔がいい。最近つい口にしてしまう言葉。カッコいいとか可愛いとか美しいとか、そういう形容詞全部ひっくるめて、『顔がいい』。これに尽きる、という気がする。語彙力なさすぎて情けないが。
とにかく、この顔が好きだ。顔だけが好きなのではないが、少なくとも顔がものすごく好きだ。少し冷たさを感じさせる目元。無邪気に笑うと目立つ、きれいに揃った前歯。
しばらく眺めてにやにやしていたが、よし、と気合を入れて圭が起き上がる。服を着て、髪を乾かして、……と支度の段取りを始めながら、ふと左手に目が行った。圭は無表情のまま薬指の指輪をスッと抜き取り、慣れた手つきでハンカチにくるみ、ビジネスバッグのサイドポケットに入れた。
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