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なんのつもりですか
「じゃ、部屋戻りますね」
シャワーを出て、身支度を整え。太一がそう告げると、ベッドのヘッドボードにもたれて座っていた圭は首を傾げて、にやりと笑った。
「ここで寝ていけばいいのに」
「……なんで」
思わず、声が低くなる。
「だって寂しいじゃない」
悪びれず、笑顔のままそんなことを言う、最低の男。
「いや、ないですないです」
「なにがよ」
「それはないでしょ。どの口がそんなこと言うんですか」
できるだけ素っ気なく。冷たく言い放って、未練なんか残さずに早くこの場を立ち去りたい。
だって自分は彼の。
「好きな子と抱き合ってさあ、その温もりを抱きしめたまま眠りたいって思うの、普通じゃない?」
真剣な声の圭。いつもどこか、へらへら、にやにやしているくせに。ときどき真面目な声を出して、こちらをドキッとさせる。
好きな子。
そんなふうに言わないで。
だっておれはあなたの。
「太一くん? おいでよ」
さっきみたいに、自分の隣をぽんぽんと指し示す。
太一はたまらず大きな声を出しそうになって息を吸ったが、どうにか思いとどまり深呼吸した。
「あの、これで、失礼しますね。今日はありがとうございました。またこっちに来るときは、」
――いつでも呼び出してくださいね。
そう続けようとした太一の前に、圭はいつの間にか立ちはだかっていた。
「太一くん逃げないで」
「!」
5センチくらいの身長差だが、逃げられないくらいガッチリと抱きしめられた。首元に顔を埋め、耳のすぐそばで話す声は、太一の大好きな、力強いのにやさしい声。
「好きなんだよ。そう言ってるよね、おれ」
「ちょっ……、待って」
だって、おれは、あなたの。
「恋人でしょ?」
圭はきっぱりとそう言った。
「ちがう、じゃん」
敬語も忘れ、振り絞るように反論する。
「おれは、圭さんの、……セフレでしょ」
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