なんのつもりですか

1/1
前へ
/12ページ
次へ

なんのつもりですか

「じゃ、部屋戻りますね」  シャワーを出て、身支度を整え。太一がそう告げると、ベッドのヘッドボードにもたれて座っていた圭は首を傾げて、にやりと笑った。 「ここで寝ていけばいいのに」 「……なんで」  思わず、声が低くなる。 「だって寂しいじゃない」  悪びれず、笑顔のままそんなことを言う、最低の男。 「いや、ないですないです」 「なにがよ」 「それはないでしょ。どの口がそんなこと言うんですか」  できるだけ素っ気なく。冷たく言い放って、未練なんか残さずに早くこの場を立ち去りたい。  だって自分は彼の。 「好きな子と抱き合ってさあ、その温もりを抱きしめたまま眠りたいって思うの、普通じゃない?」  真剣な声の圭。いつもどこか、へらへら、にやにやしているくせに。ときどき真面目な声を出して、こちらをドキッとさせる。  好きな子。  そんなふうに言わないで。  だっておれはあなたの。 「太一くん? おいでよ」  さっきみたいに、自分の隣をぽんぽんと指し示す。  太一はたまらず大きな声を出しそうになって息を吸ったが、どうにか思いとどまり深呼吸した。 「あの、これで、失礼しますね。今日はありがとうございました。またこっちに来るときは、」  ――いつでも呼び出してくださいね。  そう続けようとした太一の前に、圭はいつの間にか立ちはだかっていた。 「太一くん逃げないで」 「!」  5センチくらいの身長差だが、逃げられないくらいガッチリと抱きしめられた。首元に顔を埋め、耳のすぐそばで話す声は、太一の大好きな、力強いのにやさしい声。 「好きなんだよ。そう言ってるよね、おれ」 「ちょっ……、待って」  だって、おれは、あなたの。 「恋人でしょ?」  圭はきっぱりとそう言った。 「ちがう、じゃん」  敬語も忘れ、振り絞るように反論する。 「おれは、圭さんの、……セフレでしょ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

54人が本棚に入れています
本棚に追加