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 そっか。なんだ、おれセフレだったんだ。  自分で言ったせりふが妙に腑に落ちた。不思議と気持ちが軽くなった。いや、実際には、ずしんと腹が重くなった。 「そんなふうに思ってたの?」  抱きしめる腕を緩めることなく、耳元に甘い低音で圭の声が響く。逃れようと身体を捩るが、離す気はないらしい。観念して力を抜くと、じり、とより強く抱かれた。  くっついた胸が、相手の鼓動を伝えてくる。  ドッドッドッドッ。  自分のと同じくらい速く打つ鼓動に、違和感を覚える。こっちが緊張するのはわかるけど、そっちは違うでしょ。おれを引き止めたくて、心にもないこと言ってるんじゃないの?  戸惑いの中に、ほんの少しの期待が頭をもたげてくる。  違う違う、期待している場合じゃない。ようやく割り切れそうな気持ちを、細い糸で繋がないで。 「太一くん、いつもすぐ帰っちゃうもんね。忙しいのかなって思ってた」  そう言って圭は太一の髪を撫でる。それはとてもやさしい手つきで、そしてその手はあたたかい。 「あの、……ちょっと、離して」 「ダメ。離したら帰っちゃうでしょ?」  頭を抱き込まれる。太一は、ぷるぷると首を振った。 「帰らない。帰りませんから、お願いします」 「ほんとに?」 「はい。……圭さん、冷えちゃうから」  下着一枚きりの圭の姿が心配になった。室内は空調が効いていて決して寒くはないのだが。 「……わかった。やさしいね」  ようやく静かに解放されて、太一はためらいがちに一歩下がった。それから次の瞬間には、ぐいと腕を引かれて再びベッドに腰掛けさせられた。 「……え?」 「もうちょっとお話しよう。時間平気?」  深夜2時。明日は休みなので時間はある。  今日はいろいろと調子の狂う日だった。そういう予定ではなかったが、このあとの話次第では、会うのが今日で最後になるかもしれない。そう思うと、やっぱり逃げ出したいような気持ちになった。 「太一くん、おれのことセフレだと思ってたんだ」 「! ちがっ、それは」 「さっきそう言ったじゃない」 「圭さんが、おれを! ……そう思ってるんじゃ、ないか、って」  だんだん声がしぼんでいく。腑に落ちたはずのこの関係が、やっぱりつらい。 「おれは恋人のつもりだったのに、ひどいな」  ひどいな、なんて言いながら、その口調は芝居がかっていて、嘘くさい。 「……よく言う。帰ったら、お、……」  奥さんいるくせに。  そう言いかけて、飲み込んだ。それは言っちゃいけない。そこを言及し始めたら、もうこの関係は終わるしかない。  圭はそれに気づいたのか、太一の肩をぐっと抱き寄せた。 「そんなに曖昧にしてたんだっけか。ごめん」  じわり、と、苦いものが湧き上がってくる。  簡単に謝るんだ。それで、簡単に、甘い言葉を紡ぐ。
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