54人が本棚に入れています
本棚に追加
数字だけのやり取り
「27~29」
―「28」
「18-」
―「19」
そこで一旦、やり取りは終わる。自分が送った「19」が既読になったので、おもむろにスケジュールアプリを起動して、指先で入力する。28日、19時。「K」とだけ。
暗号めいたやり取りを楽しむわけではないが、他に添える言葉が見つからない。何か言葉を綴ろうとすると、どうも冗長で、つまらない文面になりそうで。それでも、数ヶ月ぶりの連絡に自分がどれだけ心を浮き立たせているか、彼は知らないだろう。
東京出張のたびに呼び出され、数時間の短い逢瀬を交わす。健全な関係でないことはわかっているが、会いたい気持ちが勝ってしまう。何を着ていこうか。どんな話を聞かせてくれるだろう。自分は彼に、どんな話をできるだろう。
いや、実際は、話もそこそこにベッドに入ってしまうだろう。
自分も、彼も、もう少し長く話していたいけど、抱き合う時間も削りたくはない。そんなもどかしさを覚えながら、きっと自分からベッドに誘ってしまう。
「……」
思い出して、顔が火照る。子どもじゃあるまいし、恥ずかしい。
でも。ああ、でも。
どうしようもなく浮かれてしまう。
にやける頬を両手で包み、目を閉じた。ちょうど、給湯器のリモコンが、風呂の沸いたのを知らせてくれたところだ。彼に会うまで数日しかない。少しでも引き締めて、美しい身体に仕上げなければ。
小さく深呼吸して立ち上がったときには、もうにやけてはいない。スマホを充電器にさし、お気に入りのバスソルトを手に、ヘアクリップで留めた前髪を下ろしてわしゃわしゃと指をとおしながら、浴室に向かった。
脱いだ靴下が片方、ソファの下に転げた。
最初のコメントを投稿しよう!