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「お姉ちゃん!」  興奮した亜咲は彼女に近づいた。 「お姉ちゃんなんでしょ?」  だが亜咲の姉は亜咲の問いかけを無視して、何も答えない。  亜咲の姉は亜咲が最後に見た時と同じ格好をして、ずっと何も言わずに、ただそこに立ち尽くすだけだった。  何かがおかしい。  そう思って、周囲を調べようとすると、 「亜咲?」と亜咲にとって聞いたことのある人の声が響いた。 「え?」と後ろを向くと、先ほどまで石のように固まっていた姉が亜咲に向かって微笑んでいたのだ。 「お姉ちゃん? お姉ちゃんなの?」 「そうですよ。私は亜咲のお姉ちゃん」 「今までどこにいたのよ! 心配したんだよ?」 「そう…。心配したんだ」 「なんかお姉ちゃん変だよ?」 「変なのかな?」  会話をして少し、不審に思った亜咲はあとずさって、その場から離れようとする。  その時、亜咲は足で何かを蹴った。  彼女が視線を足に走らせると、そこには沖田が横たわっていたのだ。  ただ横たわっているのではない。凍った状態で…。 「きゃあああああああ!」  驚いた亜咲はそのまま腰をぬかし、離れるようにあとずさると、またもや今度は何かに手が触れたのだ。  そっと光を向けると、そこには驚いた表情を浮かべたまま佳代子が凍っていたのである。  亜咲は驚いて飛び上がる。 「ああ…」 「亜咲…お帰り…」 「え?」  姉の右手が氷柱のように変形していき、全身も人型の氷に変わっていく。それは亜咲を抱きしめようとした。 「きゃああ」運よくその場に崩れるようにこけたことで狂気に満ちた抱擁はそれて、亜咲は助かった。  亜咲は立ち上がって逃げた。逃げて、逃げて、逃げて。  あれが自分に追いつかないように。  ただひたすら暗闇の中を一人で逃げていると、誰かに肩を掴まれて、人のいない岩の陰に連れ込まれる。  亜咲はそこで浜田と再会したのだ。
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