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ボト…。ボト…。
冷たい物が顔に降りかかり、亜咲は目を覚ました。
体を起こすも、なぜか体が鉛のように重く、亜咲の思い通りに体が動かすことができない。
「浜田…? どこ…?」
声を振り絞って、友の名を必死に呼ぶが彼の返答は…。
ない…。
はぐれたのか、それとも彼だけ一人どこかに行ったのか亜咲にはわからなかった。
「どうしよう…」
これは明らかに危機的状況だった。
耳を澄ませども、聞こえるのはさまよう風の音。
目を凝らせども、見えるのは無限に広がる闇。
手を伸ばせども、触れるのは冷たい感触。
ふと亜咲は思った。
(冷たい感触?)
亜咲は予備に持っていた懐中電灯を服のポケットから出して辺りを照らしたのだった。
亜咲は驚いた。
そこは氷に支配されたドーム状の鏡のような世界だったからだ。
立ち上がって、周囲に光を向けるも、氷は鏡のように光を反射し、まるでミラーハウスのように亜咲を映していたのである。
恐怖に染まった亜咲はそこから去ろうとした時、どこからか悲鳴が上がり、それはよく知っている男性の悲鳴が耳朶を打った。
一緒にいたはずの浜田だ。反響音を築いた彼の声はしばらくすると、どこからも聞えなくなった。
ずー。ずー。
あの何かを引きずる音が代わりに響く。
恐怖のあまり亜咲はそこから動くことができない。
光をその先に向けることもできない。
亜咲は震える口で「誰?」と言うことしかできなかった。
ずー。ずー。
「誰なのよ…」と掠れる声が漏れるが、何かを引きずる音の主は頑なに何も答えなかった。
ただ…ずー、ずーっと。徐々に亜咲に近づく音だけしか返さなかったのだ。
そして、ずずず。
亜咲は懐中電灯を落とした。それはわざとではない。驚き落としたのだ。
今、それは亜咲の前にいるからだ。
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