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――――――――――――
今年は天候が不安定だ。
ついこの前は雨ばかり降っていたのに、今週はずっと太陽が照りだしている。
そして来週からはまた雨が続くらしい。
雨の日は客足が少なくなるから、出来れば晴れが続いてほしいのだが……。
―ー16時00分。
いつもよりランチタイムが混んでディナーの分の材料が足りなくなり、近所のスーパーへ買い出しに行っていた。
店へ戻ってくると駐車場に1台、バイクが停まっているのが見えた。
あのバイクは見覚えがある……。
「あっ」
僕に気付き、こちらへ歩みをすすめる。
「この前の!」
「先日はお世話になりました。これお礼で……」
この前の豪雨の時に出会ったハーレーの女性が、僕に白い紙袋を渡す。
「気にしなくていいのに」
と言いつつ、彼女の厚意を踏みにじるのは嫌だからお礼の品を受け取った。
「あの、もしかしてこの時間店やってないんですか?」
ドアに書かれている営業時間を見ながら問いかけられた。
「はい。ランチは15時までで、ディナーは17時半からなんです」
そう答えると、彼女はこの前と同じように申し訳なさそうな顔をした。
「すみません。時間知らなくて、この前も今日も営業時間外に押しかけてしまって……」
僕は慌てて否定する。
「いやいや!この前は緊急事態でしたし、気にしないでください!……あ、今日も休憩していかれます?飲み物くらいは提供できますよ」
彼女とは波長が合うのか何だか落ち着く。この前は全然話が出来なかったから、いろいろ話がしてみたい……と思って誘ってみるが。彼女は首を横に振った。
「今度また、営業時間内に出直します」
そう言うと、僕に一礼してバイクのエンジンを始動した。
あの重低音が響く―ー。
僕は名残惜しくなり、ヘルメットを被ろうとする彼女の腕を掴んだ。
彼女は驚いたようで目を見開き、こっちを見る。
その綺麗な茶色い瞳を見つめながら、僕は口を開いた。
「名前を教えてくれませんか?」
その言葉に彼女はまた驚いた様子だったが、表情はすぐに微笑みに変わった。
「芹香です」
普段のクールな表情と違った―ー愛嬌のある可愛らしい笑顔を浮かべた芹香さんを見て、僕の胸は高鳴った。
心の中がほわっと暖かく包まれる。
長い間忘れていた何かが戻ってきたような、不思議な感覚が僕の中で起き始めたのが分かった――ー―。
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