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1 突然現れたサッカー男子
「さっきあそこにいたよね? 内山先生の」
見た目の印象より少し低めの声で発せられたその言葉がわたしの脳みそに届くまで、何秒かかかった。
「その制服かわいいね。この辺の高校?」
突然目の前に現れた背の高い男の子は、少し長めの前髪とリンクしたような茶色がかった目でわたしを見つめて、白く整った歯を見せてアイドルのように笑った。
そんな彼を、わたしはただ見つめ返すことしかできないでいた。ネットの動画の中でしか見たことがないくらい、衝撃的にキレイでかっこよかったから。
「一人で帰ってるの? よかったら僕と……」
その時、「お待たせー」と後ろからやって来てわたしの腕を掴んだのは、目の前の彼と同じ制服を着た男の子だった。
「ごめん待った? さ、行こう」
わたしを彼の前から連れ去るかのように、腕を引っ張ってぐんぐん歩いて行く。いかにも知り合いみたいな馴れ馴れしい態度だけれど、知らない人だ。きっと人違いをしているんだ。
「あの、ちょっと……」
咄嗟に適当な言葉が出てこない。
後ろを振り返ると、衝撃的にキレイでかっこいい彼は、すでに背中を向けてスタスタと歩き出していた。
「ねえ、ちょっと離して。人違いしてるって!」
すると男の子はぴたりと足を止め、振り向いて、チラッと衝撃的彼の方を見てから言った。
「人違いなんてしてないよ」
そして掴んでいた腕を静かに離した。
「だって俺、君のこと知らないもん。嫌いなんだよね。俺。アイツのこと」
男の子は衝撃的彼の歩いて行った方にまた視線を投げた。
「どういうこと?」
「アイツ、戸塚龍吾。知らない? うちの学校以外でも結構な有名人みたいだけど。あのとおり超絶イケメンだから。他の学校からもしょっちゅう女子が見に来たりしてるみたいだし」
「あの子がイケメンで人気があるから気に食わないってこと?」
わたしは少し眉をひそめた。
「まあ、それもあるかもね」
「だからわたしと話してるのをわざと引き離したわけ?」
「『せっかく超絶イケメンに話しかけられたのに~』って?」
「意味わかんない」
わたしはシラケた顔をして歩き出した。
ムカつく。そりゃあ、あんなにかっこいい男の子にあんな風に話しかけられたのなんて初めてだし、びっくりしたのは事実だけれど、だからって、別に、どうこう思ったわけじゃない。
なのに、せっかくイケメンと話せるチャンスだったのに強引に引き離されたから怒っていると思われて、その上茶化すなんて本当に腹が立つ。
別に、衝撃的にかっこいいからって何とも思っていないのに。
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