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「だって、大人とか見てても希望持てなくない?」
大学生の姉は、ちょっとだけ明るかった髪をわざわざ黒くして、他の人と同じようなスーツを着て就職活動をしていた。別に全然派手だったわけでもないのに、なんでわざわざそんなことをしなきゃいけないのかわからない。
母親はいつも言っている。いい会社の正社員じゃないとお給料も安いし、保障もないからダメだと。保障とかよくわからないけれど、あれだけ言うんだからきっと重要なんだろう。でもあんまりときめく話ではない。
「俺はサッカー選手見てるとすごく羨ましいし、憧れる。あんな風になりたいって思うけど」
前向き……というか、おめでたい人だ。年上なのに。
「なんか小田君って、悩みなさそうでいいよね」
そんなふうに言ったものの、じゃあ自分は特別悩んでいるかというとそういうことでもない。もちろん悩みがないわけではないけれど、楽しいことだってちゃんとあるし、多分ごく普通の、本当にありふれた高校生活を送っている。
同じ高校の生徒の中には、お小遣いのためではなく学費や生活費のためにアルバイトをしている子もいるらしいから、そんな子に比べたら、“ごく普通のありふれた高校生活”を送れる自分は恵まれているのだと思う。
でも、だからと言って毎日幸せを自覚しながら生きられるわけじゃない。それどころか、時々本当に嫌になることがある。
そのうちなんとなく受験をして、どこか適当な大学に入って、姉のように就職活動をして、適当な会社に就職する。そしてきっと、適当に入った会社での仕事なんて面白くない。そうやって先のことを考えただけでうんざりしてくる。
そんなときに何かちょっとうまくいかないことがあると、面倒くさいって思う。もう全部、面倒くさいって。
本当にちょっとしたことだ。髪の寝癖がどうしても直らなかったり、牛乳をこぼしたり、教科書を忘れたり。
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