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二回休み
「で?トライアルは行ったの?」
「行った。」
「どうだった?」
「どうって…別に結構簡単だったよ。
どんなもんかわからないから気張りすぎないメニュー提案してたから。」
「続けられそう?」
「まあ、お小遣い稼ぎかな。
まだ依頼全然ないしどうやって増やしていけばいいかも
いまいちわかんないし。」
「ふーん。」
10年の仲にもなるとその、ふーん、に込められている感情が手に取るようにわかるから不思議だ。
きっと、なんでそんなことを?何が楽しくて?と思っているに違いない。
「あんたならいろいろ誘ってくれるとこあったんでしょ。
なんでそんなこと始める気になったの。」
やっぱり。
「そりゃ結構いろんな人が誘ってくれたんだけど…
いろいろあったの話したでしょ。
もう誰かの下で人格否定されて殴られ蹴られして働くのに疲れたのよ。
しかも30過ぎてやっと自分で何か出来るんだと思ったら白紙よ。
もう一人で自己責任でやってるほうが気楽なの。」
私が働いていた店は働いている人数も少なく、忙しかったため
全員がストレスフルだった。
そんな職場に一番下っ端で入った若くて生意気だったばかな私は
しょっちゅシェフの逆鱗に触れ、箸や濡れ布巾が飛んでくる。
さらにひどいときは手も出る足も出る。
常に体にあざがあったし、忙しかったが故に
人の賄いを作って自分は食べる暇がなく寝る時間もなく、
今のこの時代に自分で言うのもなんだがガリガリ。
栄養失調や過労でよく点滴を打っていた。
女だろうと関係ない。
そんな職場だった。
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