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ネネが起きると、そこは外の世界でした。セミの鳴き声が聞こえて、数メートル先が陽炎揺れる真夏の田舎町。
「……?」
ネネは不安な気持ちでいっぱいになりました。今までずっと白い部屋の中にいたのに、急にこんな世界に来てしまった。
彼女はゆっくりと歩きだします。運動時間では心臓に負担を書けないために、常に機械に監視され一定のリズムから外れたり、過度に体を動かすと注意されます。しかし、ここでは機械がいません。彼女が走っても注意をしません。
しかも、どこまでも走れます。走っても走っても疲れないのです。ネネは楽しくて仕方がありませんでした。
「ハッ、ハッ」
荒い息を吐きますが次第に、そんなに呼吸を荒くしなくても、大丈夫なことに気づきます。
すべてが新しい世界でした。見たこともない建物、生き物、世界。彼女はそのすべてに触れて、持ち上げたります。
でも、全部が全部発泡スチロールを持ち上げたように軽々なんの抵抗もなく手にくっついて持ち上がり、手放そうとすると離れていきます。
もちろん、見るものすべてが新しい彼女はそんなことに違和感を覚えずそういうものだと納得します。
ネネは一見の古民家の中に入ります。玄関なんて知らないため、庭先の廊下から中に入り込みました。やっぱりそこにも初めて見るモノばかりでしたが、全部が全部持とうと思えば、手にくっつき放そうと思えば離れる。
なんだか、面白みに欠ける。
見るものすべてが新しいのに触れるものすべてが同じなのです。ネネは首を傾げて、家の外に出ました。
山手を見上げると、赤い鳥居が見えます。緑の中に映える綺麗な朱色にネネは惹かれます。彼女は神社を目指して歩き始めました。
どこに言ってもセミの鳴き声は止みません。
駄菓子屋の前で風鈴の音が響きます。
カーブミラーに写る自分に立ち止まり少し見つめます。流石に、自分の姿程度はネネでも理解しています。しかし、そこに写っている自分は茂上ネネではない女の子でした。
「……?」
首を曲げてネネは目的通り神社を目指しました。長い階段をいくら登ろうと、全く疲れません。
セミの声がより一層強くなっていく中で彼女は目的地にたどり着きます。綺麗な赤の鳥居の下に来たものの特に何も感じませんでした。
境内に入って興味深そうに見回しますが、やっぱり景色は違ってもどれも同じように思います。
そうして、また戻ろうと階段の方に戻ると。そこから街の全貌が見渡せるようになっていました。ネネはその景色がひどく気に入って座り込んでジーっと町の景色を見つめるのでした。
「ねぇ、君……」
「――!?」
急に後ろから声が聞こえてきてネネは振り返りました。そこには、カーブミラーに写っていた自分と同じような女の子がいました。
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