熱望想

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 現実世界のネネは既に死ぬ準備に入っていた。機械たちによって多くの管に繋がれて延命を行っているが限界の状態。しかし、その口は少し笑っていた。 『ネネ、ここはジンジャで、お願いごとをする場所だよ』 『おねがいごと?』 『そう、こうやるんだ』  アキトの二拝二拍手一拝の動きに合わせてネネも手を合わせる。でも、ネネは何を願えばいいのか分からなかった。 『じゃあ、ついてきて。いろいろ紹介してあげるよ』 『うん』  アキトに教えてもらったチャットの仕方もだいぶ板についている。彼女はずっと水の入っていない乾いたスポンジの状態だった。本来なら、ドンドン知識を蓄えていける時期。しかし、彼女は今日死んでしまう。そのことすらネネは知らない。  アキトに連れられて簡素な食堂に入る。長いテーブルに、背の低い丸椅子が等間隔で並べられている。店前には猫がいて、でも実際の猫の触感などは再現されていない。  それでも、ネネは『かわいい』と興奮して、猫を抱き上げた。やっぱり重さは無い。腕にすいつくように張り付いて手放せば元の位置に戻る。  その動きが面白くてネネは何度も猫を持ち上げては話してを繰り返して笑った。  そんな彼女の様子をアキトは瞳を薄くして見つめていた。  次に駄菓子屋に向かう。 『ここにはちょっと面白いものがあるよ』  そう言って、アキトは店前にある機械の前に座った。レバーを回すと機械の中からカプセルが出てきた。 『わたしもやる!』  ネネが回すと、アキトとは違う光ったカプセルが出てきた。 『大当たりだよ。開けてみて』  アキトがカプセルをひねって開けるのをみて、ネネも開ける。すると、『パンパカパーン』と音が鳴って、カプセルの中には絶対入りきれないくらい大きな麦わら帽子を握っていた。 『おめでとう』  アキトは、その麦わら帽子を取ると、そっとネネにかぶせてあげた。そうして、カーブミラーまで連れて行って彼女の姿を見せる。  ネネは喜んだ。アキトの周りを走り回り、目の前をジャンプする。  アキトは泣きそうになっていた。  こんなお遊びにもならない技術でこんなにも喜んでしまう少女がこの世界にいる。発展した世界から見捨てられて誰にも知られず、孤独に生きてきた。  この子に、『無限世界』を見せてあげたい。こんなお粗末な世界じゃなく、完成されたあの世界を。あの世界だったら、仮想の食事でも味を感じることができる。スポーツもできるし、ゲームだってある。一日の中で千人と出会えるといわれている世界だ。  自由な生活ができない彼女のような子こそ、あの世界で生きていけるべきなんじゃないか。
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