熱望想

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『もどってきたね』 『うん、見せたいものがあるんだ』  この小さいワールドの中で見せれるもはあらかた見せた。最後にアキトはもう一度ネネを神社に連れてきた。ネネが見とれていた階段の上、街を見下ろせる特等席。  アキトが何かを操作する。すると、急に夜になった。  ネネは驚いたようにアキトを見た。 『まだだよ』  ぽつり、ぽつりと暗闇の中で優しい光が生まれていく。  祭囃子が聞こえてくる。境内に提灯が並ぶ。階段の下の方に屋台の店がずらりと並ぶ。 「本当は、現実の時間で夜にならないとこの世界も夜にならない。祭りが起こるのも、毎週土曜日限定。今日じゃない。でも、今日は特別だよ」  チャットではなくマイク越しでそういったアキト。ネネは言葉が分からなかったが、頷いた。 『ほら、ネネ。見てごらん』  アキトが指をさしたその先、ヒュ~と鳴る音。  仮想世界に大輪の花が咲き誇る。 「~~~ッ」  ネネが声にならない声を上げた。  飛び跳ねながら喜びを表現して、花火を背にアキトに満面の笑みを見せた。 『もっと、もっと見たい! いろいろ見たい! あしたも、あさっても!』  純粋無垢なその言葉に、アキトは思わず縋るように彼女を抱きしめた。 「約束する。あぁ、約束するよ。明日は無理かもだけど、いつか君にもっと綺麗なものをたくさん見せてあげるから! 僕が、僕が君を救うから」  思わずそう叫んでいた。  九条アキトはこのワールドの管理人だ。このワールドの制作者であり、責任者。しかし、技術の進歩に追いつけなかった。このワールドの制作に多大な借金をしていた。  それでも、せっかく作ったこの場所を捨てれないままでいた。なんも価値がないのは分かっていたが、この場所を否定したら自分の人生を捨てるようなものだと思っていた。  しかし、ついに。このワールドは本日をもって終了する。このワールドのサーバーを管理していた会社が潰れたのだ。今日で、このワールドは終わりを迎える。  そして、アキトは終わった後に自殺しようと考えていた。  だが記念でワールドに入ると、彼女がいた。  鶴の恩返しのように、このワールドが人になってお礼を言いに来たような気がしていた。 「ありがとう」  チャットではなく言葉でそう帰ってきてアキトは、ネネの顔を見た。でも、ネネはきょとんとしている。 (――今の声は?)  そうして、見つめあっているとネネはニコッと笑った。そして、そのまま固まってしまった。 「おい、どうた? おいネネ! おい!」  彼女の前に、エラーの表記が浮かび上がった。 「おい、まさか……」  そして、ネネはワールドからログアウトしていく。 「あっ、ああ」  そして、すぐにアキトも強制的にログアウトさせられた。サーバー終了に伴い、安全面のために追い出されたのだ。 「ネネは……ネネはどうなんだ? あの子も、強制的に退場させられたんだよな。僕よりちょっと早かっただけで」  部屋の中で一人、九条アキトは呆然としていた。部屋の壁の方に目をやると、あのワールドのモチーフとなった田舎町の資料が壁に貼られている。  その中でも目立つ赤々とした鳥居の神社。  アキトはあの時、神社でこうお祈りした。 『この子も僕も、安らかに死ねますように』  拳を強く握る。内側から何かが燃え始めている。 「死なねぇよ。僕もあの子も」
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