第二章

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由奈の手が、男のトレンチコートの襟に掛かる。 痛くて苦しくて、思わず掴んだ。 トレンチコートの奥に光る社章。 「あ…」 スーツの襟についている社章はとても特徴のあるもので、由奈の会社のものだった。 「あなた…うちの会社の人…」 呻きながら言うと、男はハッとして手を離した。 その時、電車の扉が開いた。 駅についたのだ。 男は身体を翻すと、すごい速さで逃げていった。 何人かの男性が男を追いかけて電車を降りていった。 回りの女性が、由奈を駅のホームまで連れて行く。 「大丈夫?ごめんね…助けられなくて…」 中にはそんな声を掛けてくれる年配の女性も居た。 体の震えが止らない。 頭の痛みも掴まれた腕の痛みも、今は感じない。 ただ、身体が震えてしょうがなかった。 喋れない由奈を、女性たちは駅員に預けた。 状況を説明すると駅員は無線で連絡を始めた。 電車は発車することなく、ホームに留まり続けた。 由奈を駅員事務室に連れて行くと、毛布を掛けソファに座らせてくれた。 やがて男を追いかけていった男性たちが戻ってくるが、取り逃してしまったと悔しそうにしている。 駅員は防犯カメラの映像などを確認し、警察に連絡している。 「証言しますから…」 そう言って残ってくれていた人も居た。
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